sunny place | ナノ



sunny place
18








「―――ん。・・・お客さん、大丈夫ですか?」


肩を叩かれて顔を上げれば

そこに駅員さんが立っていた。


「ずいぶん長いことうずくまっていますが、どこか具合でも?」


「・・・・いえ」



駅のホームには、人が居なくて

それでも階段を降りれば
在来線もあるこの駅周辺は賑やかで
その雑踏の中、胸に手をやりつつ駅を後にした






震えだしそうな、その手で鍵を回せば簡単に開く扉。

通いなれた秋吉の家は静まり返っていて、一歩踏み込めば思わずその瞬間からうずくまり動けなくなってしまいそうで。

時折霞む瞳から、かろうじてこぼれない涙が

唯一の救いだった。



なんで、会って言葉を交わしてくれなかったのか

最後の言葉が電話だなんて、逃げていると思われてもおかしくない。
秋吉は、俺から逃げたかったのか。


家にはまだ家具とかがそのまま置かれていて
いつかは荷造りでこっちへ来るんだろうな、とぼんやりとソファを眺めた。


この床で

このソファで

あの風呂場で

あのベッドで


全て、秋吉に愛されているんだと
そう勘違いしてたのは俺で

馬鹿みたいに、貰った指輪を喜び、大切にしてた


熱い緑茶を美味しいと思った。

俺用にと秋吉が出張先で買ってきた湯のみ。


「・・・貰って、帰っても良いよな」


そんな、自分に笑いがこぼれた。

思い出、とか。

そんな良いものだったのか?

自問自答しつつ棚に手を伸ばした。


思ってたよりも、震えていた手

行き場を失った俺の気持が
手の先、足の先からあふれ出そうとしているようで
そのうち全身震えてしまうんじゃないかと思える。



その湯飲みが静かに 落ちた



ガシャ、っと音を立てて足元に落ちたソレ。

「・・・だな。持って帰るとか、女々し過ぎる」



壊れて、良かった。



そうやって、俺も壊れてなくなってしまえば良いのに。




安らげると思った場所は

結局俺の元から去っていって



簡単なことだ

秋吉も心配するように、俺の未来は不透明すぎて。

俺の親が求めるような、そんな人間になれば良い。

そうだろ?あんたも、それを望んでいたんだろ?


簡単に出来るよ。
今まで反抗してたのは、満たされなくて、何かを求めたかったから。
求めて、手に入って、結局またなくなるのなら

俺が間違ってたんだ。




さようなら、秋吉。

アンタが居なくたって、俺の日常は何も変わらない。

ちょっと家にこもる事が増えるくらいで。





今はただ、酷く人肌が恋しいと思う・・・




うずくまり、割れた湯飲みの破片をぼんやりと見つめた





END


2007.11.14-2007.11.27





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