sunny place | ナノ



sunny place
14





それから本社へ一度顔を出す日はすぐに決まった。
出張と言うほど、期間も無かったが、4〜5日は向こうで過ごすことにした。一度実家にも顔を出しておかないと。正月もろくに帰っていなかった。


相変わらず、廉は入り浸る。
何度か家に帰ることを言って、やっと帰る日々。そんなに自宅がイヤなのか、それ以上に俺の家を、俺の傍を、気に入ってくれているのか・・・。


廉の帰った後、静まり返った部屋でため息を付く。


このままじゃいけない。
ちゃんと廉には自分の道を考えてもらわないと。


「保護者な気分だな・・・」


ビールの缶を開けながら、ソファに沈み込んだ。

大人として、どうあるべきか。

廉の親が廉を不審に思って追求してきた時に俺に突き当たったら。奇麗事を並べたって俺に勝ち目は無い。
訴えられたっておかしくないのだ。

全ては、廉に惚れた俺の責任だ


「チッ・・・」

もう少し、俺が若ければ―――









「あ、秋吉さん」

「おぉ、久しぶり。」
「支社すごい実績上げてますね!こっちで持ちきりですよー」

「あぁ、ありがとう。」


久々の本社は何も変わっていなかった。
しいて言えば、俺を妬んでた奴がまた若い奴に抜かれていたくらいで。

「金沢さん、こないだはどうも」
「おお、今日は話し合いか?どうだ、こっち戻って来い。俺もお前が居る方が助かるし・・・」

「はぁ、ま、それは今から話し合いしてきます。」

「今晩一杯どうだ?約束の。」
「はい、喜んで。今日は外回りですか?」
「そうだが4時には社に戻ってきているから心配するな。そういうお前こそこっちに戻ってきて置いて行ってた女とかの約束は大丈夫なのか?」

含み笑いで金沢が告げる。
そうだった、こっちに居る時は女しか抱かなかったな、と懐かしがってみる。

「居ませんよ、綺麗さっぱり後腐れない女しか選びませんから。」
「モテる男は怖いな・・・」


1日、本社で仕事をした。
残していった仕事は無かったが、俺のデスクはそのままで、引き出しの整理や、パソコンを開いて時間を過ごした。
取引先との出張と言うわけじゃないから気が楽だ。
支社でのことを報告したり、これからの内容を決めるべく会議に出る程度で、のんびりと一日を過ごした。

本社に戻る話しは人事の人間が今日は忙しいらしく、明日に持ち越しとなった。


とは言ったものの自分でも本社に戻るべきか決めかねていた。戻れ、と言われればきっと会社を選んでもどるであろう自分。

どちらでも良いとか、期間延長、などと言われれば


俺はホッとするのだろうか。









そこは以前にも来た事のある金沢の行きつけの店。
和食で成り立っていて、おでんが美味しいと評判の飲み屋だった。明るめの、少し込み合った店内が懐かしかった。

「あら、秋吉さん、でしたっけ?お久しぶり」

そういいながら熱いおしぼりを渡してくれた女将さん

「覚えていてくれたんですか・・・」
「もちろんですよ、こんなに男前なんですから。それに金沢さんのお連れさんならたいてい頭に入れているつもりです」

「女将さん、大将に怒られるぞ」
「大丈夫ですよ、男前の顔と名前を覚えるのも立派な仕事ですからね」

あはははは、と笑い声を上げて笑う金沢。
遠目で聞いていた大将もカウンターの中からちらりと見ては笑っていた。



「どうだ、支社は楽しいか」
「えぇ、まぁ仕事はしやすいですね」

「そりゃそうだろう、秋吉が指揮とってるんだから好きなように出来る。このまま支社任されるかもな」
「・・・どうでしょうか。」


熱いおでんをつつきながら、焼酎を飲む。
冬でもビール派だけど、こういったお店では美味しい焼酎に出会うことが多い。

「でも良い顔になっている。本社に居る時はなんだ、仕事しか考えてない堅物だと思ってたからな。」
「そうですか?柔らかくなりました?」

「あぁ、表情から違う」


廉か・・・


それしか俺には思い当たらない。


「良い成長をしてるんじゃないか?」
「そりゃぁ、まぁ責任感は本社に居るよりかは感じますよね。」

「本社、戻るか」
「まだ・・・決めかねています。」

「あれだけ支社行きに良い顔してなかったのに、何があったんだ?」
「なんていうか・・・そうですね。まぁ自分の思うがまま扱える辺りですかね」

「・・・・」

金沢は“それだけか?”と言いたそうなその口を、熱燗を飲む事で塞いでいるようだった。


「金沢さんはどうですか?仕事の方。」
「ん?ああ、なんら変わらないよ、接待疲れくらいかな。会社よりも今は家の方が大変だ。」

「家?」

「あぁ、息子の進学についてね。したいことも多い年頃なんだろう。かといって勉強も粗末にに出来ない。家族内でピリピリしているよ。」

「高校生・・・ですか?」
「あぁ、春に3年生になる」

廉の・・・ひとつ上・・・

「難しい年頃だよ。ほんとに。大人のようでまだまだ子供だ。本人はそうは思ってないようだがな。将来のことを考えるには息子はまだ未熟なんだろう。夢だのどうだのとうるさくてな・・・なんとか真っ当な・・・いや、この際ちゃんとした職について、普通の家庭を築いてくれさえすれば、親としては満足なんだがな・・・」


「家庭・・・」

「あぁ、すまない。まだ若い秋吉にこんな話し。」
「いえ、そんな家庭話も為になりますよ。なにせ俺は独身ですから・・・」

「そうだな、秋吉も身を固めたらどうだ?親御さん安心させてやれよ?それも親孝行だ。」

「親孝行、ですか・・・」


親を出されてしまえば、なんとも苦い気分になる。相手はいるのかと、この間も聞かれたところだ。まだ若いからと思っているのは俺だけだったのだろう。
こうやってまだ高校生の息子を持つ金沢だって思っているくらいだ。


廉の親だって・・・


その前に廉の将来についても

俺は、廉にとってマイナスなんじゃないか?


全てを捨ててでも、と思っているのは俺だけで

廉にとっては一時の、若気の至りじゃ無いのか?





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