sunny place | ナノ
sunny place
12
side:秋吉
出張先ではほとんどが移動と接待で一日がつぶれる。出たついでとばかりに近くの取引先に顔を出し、夜はほぼ飲みでつぶれる。
移動の合間にノートパソコンを開き、早々と本社に報告を済ませる。
コーヒーを片手に一息つけば思い出すのは廉の事。
俺の想いを指輪に託し、それ以来、出張が増えてからというもの出張前には家に入り浸るようになった廉。
表に出さない寂しさとか、俺の傍に居たい、というのはひしひしと伝わってきていた。
だが・・・
あまりにも自分を犠牲にしすぎる。
学校に半日しか出ない、自宅へ帰らない。出張前だけだと思っていても、それがどう影響していくかわかったもんじゃない。
仮にも自分は大人だ、まだ親を頼る高校生をそんな目に合わせている場合じゃない。
それに、廉の今の年齢はたくさんのものを吸収して欲しいと思う。今しか出来ない事だってあるんだ。
少し前までの、廉は淡々としていた。ときおり見せる、俺を求める表情は確信的だった、だから俺もその気持を伝えるためにカタチにしたんだが・・・
「・・・・失敗だったか」
これほどまでに夢中になってくれるとは思わなかった。
もう少し、時間を掛けていくべきだったのかもしれない。焦りではない、嬉しさで起こした行動が裏目に出ているようだった。
俺の話しを拗ねたように聞いて帰った廉からは連絡が来ていなかった。
このくらいで良いのかもしれない。
廉にはもっと今の自分を楽しんでもらいたい。高校生としての。その傍らで俺の事を考えてくれれば良いのだ。
いつか廉が女と恋愛をしようとも、代わりの男が出来たとしても、俺はいつでも身を引くつもりで居た。
それくらい、廉の犠牲にはなりたくなかった。
結婚も、恋愛も望んでいなかった俺だ。廉が離れて独りになったところで、いずれはそうなるものだろうと、どこかで消化できただろう。
廉が駄目になるような関係なら、続けるべきじゃないのかもしれない
これからの自分たちを・・・危惧しながらも、帰りの新幹線に乗り込んだ。
◇
玄関を開け、部屋の中の温もりに視線を下ろせば、玄関にあったのは廉の靴
やっぱり
出張から、帰って来る日は必ず廉が家に居る。
いつものことになりつつあったが、それに慣れてしまってはいけないんだろう。
「ただいま」
「お、かえり」
自信のなさげな廉の声が出張前の会話からなのだろうと思う。あれだけで、不安にさせていたのだと。
こちらからメールのひとつでもして、安心させてやればよかった。
「ちゃんと学校行ってるか?」
「行ってるよ」
「コレ、お土産」
「岡山・・・きび団子・・・ベタな」
「時間が無かったんだ。慌てて新幹線に乗り込む前に買ったからな。要らないなら俺が食べる。」
「一緒に食べる」
そう言って、棚から緑茶の用意をし始める。
年末の出張では廉用に湯のみを土産に買ってきた。
机にその湯飲みを並べ、急須にお茶の葉を入れる廉。何度か茶葉の分量を間違えたりもしたが、最近は上手に入れる様になった。
たまに可愛くなる廉を、出来ることならこの家に閉じ込めたいくらいの・・・それくらいの感情が
俺にだってある
それをしてしまうことは簡単で、今すぐにでも出来るだろう。もちろん、廉の合意のもと。
が、現実はそうはいかない。
この年齢差の犠牲になるのはこの先も、きっと・・・廉だろう。俺が犠牲になるのはいくらだって構わない、何とでもなるんだ。
何とでもならない廉を、俺はどう守っていける?
「次の出張とかわかってるの?」
「いや、今のところは・・・あぁ、でも本社に一度行かなくちゃならない」
「いつ?」
「まだ先だろう、本社に連絡つけてからになるしな・・・・寂しいか?」
「ぜんぜん」
見え透いた嘘を。
「廉」
「んっ」
傍らに座る廉を引き寄せ、唇を重ねる。
いつだって、いつまでだってこうやって触れ合っていたい。今年28になる良い大人がこれだけ嵌るなんて思いもしなかった。
手を出してはいけないものに手をだしたのだろうか。
キスを落とせば、すぐに夢中になり、全身の力を抜く廉。その体を支えながら、ソファに沈み込んだ。
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