sunny place | ナノ



sunny place
10





街中が、赤と緑に彩られていった。

夜になれば電飾で飾られた木々が駅前から続く道に並んでいる。


クリスマス



クリスマスは二人で過ごしたい、なんてそんなロマンチックな事なんて考えてなんかない。
案の定、秋吉は仕事で忙しいみたいだし、25日は出張らしい。女が居るなら、俺の相手なんてしている暇なんてないだろう。


「桐生、クリスマスに向けて合コンするんだけど、参加しねぇ?」
「・・・・んー。しない。」

「えぇ!なんでぇ、お前彼女いんのかよ?」
「いないけどー」

「じゃぁ参加だろ!」
「なんか今、女いらねぇの。めんどくさくって」

恋だとか愛だとかが。


「健全な高校生の言葉かソレが!?」
「あはは、ほんとだな。いや、マジで用事あるから」


秋吉に恋、愛という感情を持っているかって言われたら・・・わからない。きっとあるんだろうけど、認めたくない。
依存している、と言う方がしっくりくる感じだ。

辞められないだけ。
ないと困るだけ・・・。








「24日、空けとけよ」
「え?」

気だるく、裸でベッドに沈んでいる俺にそう秋吉の声が降ってきた。

「クリスマスだろ?24日家へ来い」
「なんで」
「一緒に過ごしたくないのか?25日から出張でしばらく会えないしな。」


空いてる、クリスマスを俺にあててくれるって・・・


「喜べよ」
「あ、あぁ」
「なんだそりゃ」
「いや、驚いて・・・」

女は?いないの?

確かに女の影は見たことも無い。一度見かけたのは会社関係だとわかったし。
たまに香る香水の匂いは、接待だと思える。

本当に女はいないのかな?

俺しか抱いてないのかな?


「ケーキもチキンも、ワインも揃えて待っている」
「わっ、想像するだけでキザだな」

でも・・・秋吉には似合っている。













秋吉はまだ帰っていないだろうっていう時間。

扉を前に緊張した。何度も携帯の日付を確認して、あの時の秋吉の言葉は嘘じゃない、と何度も反芻して挑んだ今日。24日。


扉を開けて、静まり返った部屋を眺める。
いつもと変わらないのに、なんだか今日というだけで特別に感じるのは不思議だった。
秋吉が帰ってくる時間はわからないけど、それまでどう過ごそうとか、どう出迎えようかなんて無駄に考えてしまう。

待つこと4時間、時刻は9時。

仕事で遅いのか、連絡も無くこれだけ待たされて、苛立ちというか、怒りのようなものが浮いてくる。それは不安からきているものだって判ってるんだけど―・・・

「ま、まぁまだ9時だ。」

おなかは空いた
夕食の時間なんてとっくに過ぎているのに


棚から急須を取り出して、緑茶を入れる。
いままでそんな事したこともないのに、手馴れてしまった自分に苦笑する。

冬は熱い緑茶を美味しいと思う。





玄関から物音が聞こえたのはそれから1時間半も後の事。


ソファから思わず立ち上がってしまったものの、慌てて座りなおす。



「悪い廉、遅くなった」
「遅すぎだよ、腹減りすぎた」

「あぁ、すぐ用意しよう」

そんな秋吉の両手にはたくさんの買い物袋。
ワインやシャンパン、ケーキ、そのほかにも食べ物が見えていた。

「やっとくから着替えてくれば?」
「あ、あぁ、すまない。それじゃお願いする」

時計をはずす仕草をしながら部屋に入っていく秋吉を見届けて、置かれた買い物袋から一つ一つ、テーブルに出していく。

ローストビーフやチーズ、サラダにチキン・・・
それらを皿に盛り付ける。百貨店で揃えてきたらしいそれらは、冷えていたけどちゃんと二人で過ごす事の出来るクリスマス。
秋吉の姿を見て、さっきまでの苛立ちとかはどこかへ消えていた。


最後にワイングラスを棚から取り出した。



「あぁ、ありがとう。廉も少しは飲むだろう?ワイン苦手かと思ってシャンパンも用意してるけど」

部屋から着替えて出てきた秋吉は黒いスウェットの上下姿だった。

「お子ちゃま扱いかよ」
「いや、そのシャンパンもなかなかのシャンパンだ。その辺に売ってる子供向けのじゃないよ」


そう言って、部屋着の袖を捲くるとソファに座り、シャンパンを開ける秋吉。

グラスに注がれたロゼ色をしたシャンパンが綺麗だった。


「じゃ、メリークリスマス。」
「あぁ・・・」

シャンパンの甘さと香り、目の前にある料理、そして秋吉。全てがおとぎ話のようで、迷い込んだ森の、その先にあった物のようで。夢かうつつか・・・

「どうした?」
「あ、ううん、別に。いただきます・・・」


「・・・・廉、手、出して」
「?・・・手?」

「そう。」

言われて出した左手。
何か渡されるのか?と思っていたのに、手のひらには重みなんて感じなくて。


秋吉の手の温もりの後に感じたのは、ひんやりとした物が・・・・


「え?」


思わず目を見張った

右手のフォークを落とす所だった


その、俺の左薬指に光るシルバーリング



「クリスマスプレゼント」

「ゆ、びわ」

「あぁ、装飾品嫌いだったか?」

ぶんぶんと首を振って答える

「ペア、なんだがな。俺のはここ」

そういってポケットから出てきたリングはそのまま秋吉の指にするりと嵌っていった。

「そんな簡単に・・・」

薬指に嵌めるなんて

「ってか、何で?」
「まぁ、仕事中はつけてられないけどな。 ・・・嬉しくないのか、廉」


「いや、なんていうか、良いの。俺が嵌めてて、あんたとペアで・・・」


俺のそんな言葉を聞いて、ふう、とため息を吐くとワインを口に運んだ秋吉。


しばらくの沈黙



「やっぱり、廉は俺のこと・・・そんな風に見てないのか?態度が・・・なんていうか情が薄いというか、淡々としている感じはあったが・・・・」


「そんなこと・・・」


それは、俺が自分を押さえ込んでいるだけで・・・。



「少なくとも、俺は廉のこと・・・こうやってペアリングを嵌めたい、と。・・・それなりの意味で想っているんだが。」



なんてクリスマスだ


プレゼントがあるなんて思ってなかったし

それが指輪って事にも驚いているのに

秋吉が恋愛感情を俺に抱いていたなんて

しかも左薬指に嵌めるほどの・・・・





「―――な、んか。俺・・・嬉しすぎてヤバイ」





そんな俺の言葉を聞いた秋吉が、ホッとした顔で微笑んでいた。


不安に思うことなんて無かった。
もっと秋吉を求めて良いんだ、体だけの関係だと割り切ってるつもりが全然割り切れてなんか無かったけど、これからはそんなの気にせず・・・秋吉を求めて良いんだ。

ほんと・・・嬉しすぎる・・・

秋吉はどれだけの感情を俺に抱いてたのか。

必死で押さえつけていた俺の感情との差はかなりあっただろうに。その差を感じてながら、こうやって指輪を渡してくれるって・・・・・・相当だと思ってるんだけど。

そんなことを考えるだけで、嬉しさで顔が・・・っ


「変な顔。笑うか、赤くなるかどっちかにしろ、って無理か。どっちもして良いから、その動揺を抑えるな。醜い」

「ひ、ひどっ!!」

そんな変な顔になってるのか、俺ッ!



その日は秋吉の家に泊まりこんで、たがの外れた俺たちはお互いを求めまくった。

もちろん、翌日からの出張で会えない分も。





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