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sunny place
06






『フェンスの老朽化の為、屋上の使用を禁ずる。フェンス工事は夏季予定』

――その文字を、ただ見つめるしか出来ないで居た。
目の前に貼られた張り紙と、幾重にも巻かれたチェーンと南京錠。何度も何度も目はその文字を追いかけて、やっと意味を理解できた時、視線を足元へと移した。

扉が閉まっていれば風が通り抜けず、澱んだ踊り場。その壁の向こうには澄んだ空気が動き、暖かい日差しが降り注ぎ、誰の視界にも止まる事のない空間があるというのに。

鉄の重たい扉が聳え立っている。

そんな無機物にさえも俺は、見放されているらしい。


口から苦笑が漏れそうで、腕で押さえた。その場に無造作にカバンを落とすと、しゃがみこんだ。埃っぽい匂いが包み込むようで、聳え立つ扉の窓からは霞んだ光だけが差し込む。

静まり返るその場所に、たった一人だ。
たった一人、自分一人がそこに居るだけ。

「…似合ってるよ、俺に。」

クツクツと、小さく肩を揺らして笑った。

「なんで…俺は、」

生まれたのだろうか。

何故、母は俺を産み落としたのだろうか。
母を責める事なんてできない。
母だって、俺を身篭った時は迷惑だと思っただろう。

ずっしりと重たくなった気持ちはその場から動こうとしなかった。堂々巡りを繰り返し続ける、俺の存在。苦しくなる胸をどう開放してやったらいいのかわからなかった。叫ぶ事ができれば、いっそのこと、なりふり構わず思い切り泣くことが出来たら、少しは楽になるのだろうか。
1年間、重なり続けたこの気持ちから、開放される事はないだろう。

(まだ一年だ)
人生の内で始まったばかりの俺への罰のようだった。

出口なんて一生見つからない。

俺が死ぬまで。一生。






何かに引っ張られるように、体がふわりと後ろに傾いた。

「――っ、」

ずっと下を向いて座り込んでいた俺は貧血のようにクラクラする感覚に慌てた。後ろは階段だと恐怖で目を瞑ったのもつかの間、暖かいものが纏わり付いてきたことに目を開いた。

「おはよ、高屋恵生。一限からサボる気だったのか?屋上締め切りだって昨日センセー言ってただろ。折角だから俺に付き合って映画とかどうよ。天気も良くってデート日和だろ?」
「…と、東間っ。」

静まり返ったその場所と、沈んでいく俺の気持とを砕くような、明るい声が響いた。

後ろから抱きしめられて、その東間の胸に全体重がかかる。俺の体勢ときたら東間が居なければまっさかさまに落ちていくだろう。
一度、ぎゅっと力を込めて抱きしめられてから、そろりと離された。

姿勢を整えると東間は俺の手を握り、空いた方の手で落ちているカバンを拾い上げるとそのまま階段を下りていった。上履きを履き替え学校を後にした。
終始、俺たちは無言のままだった。抵抗する気にもなれなかった。
東間が気まぐれで俺に構うのならば、付き合ってやれば良い。俺にだってその程度でも人の役に立つのだろう。飽きれば離れていけば良い。

まだ、溢れ続ける。
こぼれて、こぼれて、痛みなど感じないくらい、あらゆる全てのものが俺の体内からなくなってしまえば良い。

東間と俺の手は繋がれたままだった。

昨日腕を掴まれた時に感じた違和感とかが全く無くて、俺は払う事もせず、時折ぎゅっと強く握り締めてくる東間に委ねた。


今は居場所が欲しかった
今は手を掴んでいて欲しかった
今は俺の存在を感じて、感じさせて欲しかった

そんな俺は欲張りだろうか。
望んではいけない、期待してはいけない。強くなくてはいけない。その全てが出来ずに、差し出された温もりに甘んじて、いつか罰が下るだろうか。





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