「溜息ついてると幸せ逃げちゃうよ。ただでさえ委員長怖い顔してるんだからさあ」
「誰のせいだと思ってんだ。つうか最後のは余計だ」

こうやってくだらない話をほかの誰でもない、彼とすることが何よりも幸せで、新はにやけが止まらなかった。

「でも委員長も大変だねえ。毎日毎日こんな時間に見回りなんてさ」
「まあこれが仕事だからな。それにちゃんと見回りしねえと悪さする奴が出てくるだろう、お前みたいに」
「……俺え？俺、何にもしてないけど」

首を傾げると委員長がトントンと首の付け根を叩いた。

「お盛んなのは結構だがな、ほどほどに。こういうのは周りに伝染するんだ。目に付くような所にはやめろと彼氏に言っとけよ」

一瞬何を言われたのか分からなかったが、理解した途端新はどうしようもない思いに駆られた。

「彼氏なんかじゃない、よ」
「ん？」

新の小さな呟きが上手く聞き取れなかったのか、委員長が優しく聞き返してくる。

「……あれは彼氏なんかじゃない。ていうか名前すら知らないや」

にっこりと軽薄な笑みを張り付け言い渡す。少しでも俺のことを見てくれれば、そんな思いのもと告げた言葉。
俺を真っ直ぐ捉える委員長の真っ黒な澄んだ瞳に、ツキリと心が痛んだ。

「名前すら知らないって、……」
「うん、知らなあい。幻滅した？」

きっと俺は今酷い顔をしていると思う。
でも、それでも。この人の視界に入りたいと思った。俺だけを見てほしいし、俺だけに優しくしてほしい。
どうしようもなく、この人が好きだから。


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