主従遊戯


「申し訳ございません、ご主人様」

悪びれている様子の全く感じられない声音でお決まりのセリフを告げる百瀬に、僕はやっぱりか、と溜息をついた。

「すぐに片付けますので」

僕のついた溜息に反応したのか、百瀬は一瞬脅えたような仕草をして見せる。しかしそんな態度とは裏腹に、目だけはギラギラと物欲しそうだ。おそらく、出来の悪い執事として罵られ性的な再教育を受けたいんだろう。
どこから持ってきたんだ、と問いたくなるような本格的な燕尾服にしっかりと身を包み、いかにもお堅そうなノンフレーム眼鏡をかけた男前。そんなどこからどう見ても、真面目な執事、と形容できる男の中身が被虐思考のど淫乱だなんて、いったい誰が想像できようか。
これから展開されるだろうごっこ遊びを想像して、げんなりとしてしまう。
しかしいつまでもこのままにしておくわけにもいかない。僕はご主人様と執事という設定に沿うよう、椅子に深く腰掛けたまま重々しく口を開いた。

「ズボンにスープが付いたじゃないか。早く綺麗にしてよ、キミのその口で」
「っ……かしこまりました」

言った瞬間、嬉々として床に膝をつき、服に飛び散ったスープに舌を這わせる姿に、仄暗い感情が湧き上がり背筋にゾクリとしたものが走る。

(やだな、これって結構毒されてるってこと?)

本当に、嫌になってしまう。こんな状況に僅かでも快感を拾ってしまうなんて。そんな僕の思いを露程も知らない百瀬は、ピチャピチャと音を立てながら必死に舌を伸ばしている。
スープか唾液か判別のつかないモノでぐちゃぐちゃになったズボンが、肌に張り付き気持ち悪い。

「そこはもういいよ」

そう言って頭を押しのけると、物足りないのか少し不満げな目とぶつかる。どこまでも貪欲に性を求めるその姿は、異様でどこか艶めかしい。そんな彼の願望を叶えるため、僕は更なる命令を告げた。

「ちょっと中まで浸み込んでるみたいだ。きちんと中まで綺麗にしてよ」
「勿論でございます」

恍惚とした笑みを浮かべ、百瀬はゆっくりと僕の膝に手をかける。そして見せつけるかのように膝を割開き、その空間に身体を滑り込ませてきた。

「失礼します」

そういうやいなや、目にも留まらぬ速技で自身がズボンから取り出される。まだ萎えたままのそれに百瀬の冷たい手が触れ、思わずびくりと反応してしまった。それを見た百瀬が嬉しそうに笑い、息が吹きかけられる。

「今、綺麗にしますから」

そんな言葉と共に、自身が暖かい口腔に包まれた。ぬるぬるとしたそこは、ただ挿れているだけでも気持ちがいい。


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