会長様の場合
再び文句を言ってやろうと口を開いたところで、棚町に言葉を被せられてしまった。何と言ったのか上手く聞き取れなかったため聞き返す。
「だから、お前そんな顔も出来たんだなっつったんだよ」
ぽつりと告げられた言葉に、ふっと肩の力が抜けていく。
「お前、いっつも表情変わんねえし、気持ち悪かったんだが。そんな顔も出来るんなら大丈夫だな。そっちの方が、ずっといい」
うんうん、と頷く棚町は満足そうな笑みを浮かべている。
「それだけ……?」
俺はてっきりハゲを使って何か要求を呑まされるとばかり思っていたのだが。そんな言葉が口をついて出てしまう。
「まあ、言いたいことはそれだけ、だな。安心しろよ、別にハゲを言いふらすつもりはねえし」
「そ、そうか」
あまりにも予想外なことばかりで頭がついていかず、そんな返しをすることしかできない。
「書類は見終わったか?」
「え?ああ、終わった」
「よし、じゃあ俺は風紀に戻るわ」
俺の机から、持ってきた書類を摘み上げ、何事もなかったかのように棚町は扉へと歩いていく。
「お、おい」
そんな奴に、俺は慌てて言葉をかけた。
「えっ、と。ハゲのこと、黙っててくれるん、だよな。さんきゅ」
今までまともに口を利かなかった奴にこんなことを言うのは、少し照れる。顔が赤くなっている、気がする。
「おう、黙っててやんよ。何てったって、俺とお前の、やっとできた繋がりだかんな」
そう言葉を残して扉を閉めた棚町に、俺はただただ感謝した。
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