会長様の場合
「どうしたって、お前。その髪、」
「髪……?っあ゛」
(っ何やってんだ俺はああああああ!!!馬鹿なの死ぬの!?)
あろうことか、俺はやってしまった。墓穴を掘った。
ペンを持った右手で、右の髪を、右の耳に、かけてしまったのだ。そこに広がっているものは、そう。もちろん、
「お前、ハゲてんの、か?」
(ぃいいいいやぁああああぁあああああ、ハゲ見られたああああぁあああ)
「何言ってるんだ、棚町。お前疲れてるんじゃないか。ハゲてるとか。俺たちはまだ10代だぞ。そんなことがあるわけないだろう」
ささっと目にもとまらぬ速さで髪をおろし、決して相手に動揺を悟られぬよう極めて冷静に答える。まだ間に合う、大丈夫だ、誤魔化せるはずだ、と必死に自身に言い聞かせる。
「いや、ハゲてただろ」
「ハゲてなどいない」
大丈夫だ落ち着け。
「いや、ハゲてた」
「ハゲてない」
落ち着け。
「ハゲてた」
「ハゲてねえっつってんだろボケええええぇええぇええ」
落ち着ける、はずなかった。
「何なのお前さっきから。そこは気ィ利かせるとこだろ。何追求しようとしてんだよ。馬鹿じゃないの。死ね、カス!!」
外聞も何もあったもんじゃない。身につけたポーカーフェイスという仮面をかなぐり捨てて俺は叫んだ。久しぶりに大きな声を出したせいか、肩で息をしないとつらい。ハーッ、ハーッ、と整えていると、ポカンとアホ面をさらしている棚町と目があった。
(こいつ俺の最大の秘密を握っておいてっ)
「わかってんのか、てめ「お前、そんな顔もできたんだな」え、…は?」
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