会長様の場合


「おい、御笠いるんだろ。何してんだよ」

御笠、それは俺のことだ。この学園の人間は、ほとんど俺のことを“会長”と呼ぶ。それはもはや暗黙の了解のようなものだ。しかし中にはこうして御笠、と呼ぶ奴もいる。
俺のことをそう呼び、生徒会室に堂々と入ってくる人物。そこから導き出される答えは、

(棚町……か)

棚町誉、風紀委員長。生徒会長である自分と並んで学園を引っ張っていく男だ。
でも、なんでこいつがここに。
自分で言うのもなんだが、俺は棚町にあまり好かれていない。理由は、多分ポーカーフェイス、だと思う。あまり自信はないが。前に、「お前のそのすかした顔、気に入らねえ」と言われたから、間違ってはいないだろう。

(それなのに、なんでよりによって今来るんだよこいつは。空気よめ馬鹿野郎)

見つからないように息をひそめ、俺は石、俺は石、と自己暗示をかける。が、無情にも奴の靴音はゆっくりと近づいてくる。
コツリ、コツリ、と響くそれは、まるで死へのカウントダウンのようだ。

「おい、いつまで隠れてんだお前は」
「別に隠れていたわけじゃない。コンタクトを落としてしまって探していただけだ」
「あそこで割れてる鏡はどうした」
「少し手が滑ってな、放り出してしまったんだ。別に棚町が気にすることじゃない。で、用はなんだ」

上から覗き込まれたことでどうしようもなくなり、俺は立ち上がって棚町に向かい合った。言外に早く帰れと含ませながら淡々と尋ねると、棚町が書類を差し出してくる。

「今度の文化祭についての書類だ。すぐに持って帰りたいから今目を通してくれ」

(ええええええ、ほんとになんで今。マジで帰れよ、もう帰ってください)

心の中ではそう思っていても、今俺は会長としてこいつに対面しているのだ。ポーカーフェイスを崩すわけにもいかない。

「わかった、そこのソファにでも座っていてくれ」

そう声をかけてから、日々の書類整理によって身につけた速度スキルをフル活用してざっと書類に目を通す。それからサインをするために、邪魔な髪を耳にかけた。

「っお、まえ……、それ、」
「どうした、棚町」


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