会長様の場合


ピタリ、とすべての動きを止め、俺はそっと引き出しに手をかけた。左側の上から2段目。そこをそっと開き、中にしまってあったものを取り出す。手にしっかりと握られているモノは、…鏡だ。何の変哲もない、ただの手鏡。それを目線の高さにまで持ち上げ、鏡で確認しながら右手でゆっくりと髪を掻き揚げる。そして、そこに広がっている光景とは……。

「ジーザス!!!!」

俺は思わず立ち上がり、出し得る限りの力を尽くして鏡を床に叩き付けた。ガシャン、と嫌な音を立てながらあたりに破片が散乱する。その破片にまでも俺の哀れな頭皮が映し出されていて、がくっとその場に膝をついた。
俺の体に起きた異変。それは、非常に言いづらいのだが、所謂ハゲ、というやつだ。
右の耳あたりから頭頂部に向かって、一部ごっそり髪が抜け落ちてしまっている。これをハゲと言わずに何と言おうか。

「なんで。俺の髪よ……」

そう口には出したものの、理由などわかりきっている。
俺の髪がなくなったのは、偏にストレスのせいだ。なぜならちょうど半年前、前会長に指名された頃から薄くなり始めたのだから。
最初は、抜け毛増えたか?ぐらいなものだったんだが、前会長に「感情をストレートに表すの禁止な」と言われ従いだしたことをきっかけに、ごっそりと、さよならした。それはもう、引き留める間もなく、あっさりと。

もともと、俺は感情を表に出す方の人間だ。嬉しいときは嬉しいって表現するし、嫌な時も、辛い時も同様。とにかく思ったことが顔に出る。
それなのに、前会長の命令に逆らえず人前ではポーカーフェイスを保つようになったせいで、精神的にも肉体的にも相当な負荷が掛かかるようになった。加えて外では四六時中ブツとケツを狙われてることだし。

家の家系は親父も、爺様もハゲているのでもしかしたら自分もいつかは?と思ってはいた。思ってはいたが、まさか10代で経験するとはさすがに予想範囲外だ。

「マジでどうしよう。今はまだ隠せてるけど、これ以上いったらもう無理だよ。ぜってえバレる。10代にして鬘生活スタートってか、笑えねえよ」

もういっそのことスキンヘッドにでもしてしまおうか。ネガティブな方向に向かい始めた思考で、ぼんやりとそんなことを考える。

「あ゛あ゛あ゛神様俺の髪を返してえぇえええぇえ゛「入るぞ」え゛え゛、……え゛?」

誰もいなかったはずの生徒会室に突然第三者の声が響いて、俺の中の時間が止まった。これは比喩なんかじゃない。言葉通りに、リアルに、止まった。

(え、何誰。てか鍵は?俺鍵閉めてなかったの?嘘でしょおおおお。バレる。ハゲがバレる。俺の人生終わった、完璧に終わった……っいや、まだ終わってない。幸いここは机の陰。入り口からは俺の姿は見えてない、はず!大丈夫、だいじょう「御笠?」ぶ、……)


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