会長様の場合


「あっ、会長様だ。今日もカッコイイ…」
「ホント素敵だよねぇ」
「男とは思えねえくらい色っぽいよな」
「一回ちょっとヤらせてほしいわ」

などと、だいぶ聞き慣れてきた賛辞諸々の中を真っ直ぐ突っ切っていく。表面上はなんてことないように繕っているが、俺は内心ほとほと疲れ切っていた。何が楽しくて自分と同じモノがついている野郎に前も後ろも狙われなければならないのか。

先程の言葉を聞けばわかるだろうが、俺はこの学園の生徒会長をしている。ここで、我が学園とその生徒会選出方法を簡単に説明しておこう。学園は由緒正しい全寮制男子校で、生徒会役員は先代からの指名制だ。決して、ランキングなどによる投票ではない。先代の独断と偏見のみによって決定され、拒否権などは驚くべきことに存在しない。ある日突然、「次の役員はお前な」と告げられ、あれよあれよという間に役員席に祭り上げられる。

どの代もそうなのかは知らないが、俺の場合はそうだった。
前会長は、それはもう横暴というか何というか、とりあえず凄まじい暴君で。発言する間さえも与えてくれなかった。

「はあ……」

当時のことを思い出して、つい溜息がもれ出てしまう。と同時に、きゃあ、だの、うおお、だのと湧き上がった黄土色の歓声で、ここが廊下であったことを思い出した。
このような衆人環視の中で感情をストレートに表すことは自殺行為だと、あれほど叩き込まれたというのに。迂闊だった。
ギラギラとした獲物を狙うかのような視線から逃れるため、俺は生徒会室へと歩を進めた。

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パタン、と扉を閉じ、外界を遮断する。生徒会室は、役員分の執務机と応接用のテーブル、ソファがあるだけの、いたってシンプルな造りだ。俺は、自分の席、つまり会長席にどさりと腰をおろし、今度は他人の目を気にすることなく堂々と息を吐いた。

「あ゛あ゛ぁ……」

この部屋には現在自分一人しかいないのだから、例えおっさんのようなものが出たとしても何の問題もない。椅子をキコキコとならしながら「あ゛あ゛あ゛あ゛……」と意味もなく奇声を発する。そうでもしないとストレスで頭がおかしくなりそうなのだ。

否、おかしくなりそう、というのは間違いかもしれない。
――もうすでに、体に異変が起きてしまっているのだから。


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