戻れない、戻らない


閉め切られた窓にカーテン。明かり一つない真っ暗な部屋に、ベッドの軋む音と二つの荒い息だけが響く。涙や鼻水、涎など、さまざまな体液でぐちゃぐちゃになった顔が、シーツに擦れ気持ち悪い。散々好き勝手弄られた体は重く、所々痛みを訴え始めている。だが、俺は媚びるような、誘うような、甘ったるい声をひたすら出し続けた。

「っあ、ンそこぉ……ふぅンう、もっ、とぉ、」
「ハッ…、こんなんでもっ、感じんのかよインランっがっ」
「やア、あ゛ぁ」

インラン、その一言が頭を巡り、また一つ心に傷をつける。この歪んだ関係が始まってからかけられ続けているその言葉には、もう慣れたと思っていたのだが。ツキリと痛んだ心に、自身にもまだそんな感情が残っていたのかと、自嘲の笑みが零れた。

「あ゛、ぐぅっ、っあぁ゛」

少し感傷的になっていたところに突然痛みが走り、思考が現実へと引き戻される。

「随分と余裕みてえだなあ、あ゛ぁ゛?こんなんじゃ、足りねえってか」

耳元でそう囁かれ、背筋にぞくりとしたものが走った。噛みつかれたのであろう首筋からは、ぽたぽたと血が零れシーツへと浸み込んでいく。
なぜこんなことになってしまったのか。何度も考えているのに一向に答えの見つからない疑問に、じわりと視界が歪んだ。こんな関係はやめて、もとに戻りたい。そんな思いとは裏腹に、彼にこうして体を求められることに安堵を覚えている自分がいる。
相反する二つの思いは、じりじりとまるで真綿で縛るかのように、少しずつ少しずつ、自身を追い詰めていく。

――このままではいつか、壊れてしまうかもしれない

乱暴な腰使いに揺さぶられながら、ぼんやりと思った。しかし、俺は心のどこかで望んでいたのかもしれない。この世で最も愛しい男に壊される瞬間を。

腹に注がれる液体の熱を感じながら、俺の意識はそこで途切れた。


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