多苦悩処


「お前、地獄に落ちるって言われてなんも思わないわけ?」
「なんも思わないわけじゃねえけどな」

頭をがりがりと掻くのは、和泉の一種の癖だ。言いたいことを頭の中で纏めているのだろう。再び和泉が言葉を発するのを待つ。

「なんか、よくねえ?」
「何が」

いきなり発せられた言葉の意味が上手く汲み取れず聞き返すと、しっかりと目を合わせながら和泉は言葉を紡いだ。

「だから、俺はお前のせいで地獄に落ちるわけだろ」

その言葉に引っ掛かりを感じながらも、「まあそうだな」と返す。

「んで、お前は俺のせいで地獄に落ちる、と。うまく言葉にできねえけどさ、」

――それって、俺らが互いに思いあってるっつう証拠になんじゃね。


「…っ、おっとこまえだなあ」

つい口にしてしまった言葉に、「当然だろ」と返してくる和泉は本当に世界一男前だと思う。こんな男が自身の下で乱れるなどと、いったい誰が想像できようか。

「んなわけで俺らは地獄行き、免れねえな」
「そうだな。でもお前となら地獄にでも行ってやんよ」
「嬉しいこと言ってくれんじゃねえの。じゃあどうせ地獄に落ちるなら、それまで存分に楽しもうぜ」

――もっかい、な。

首に手をまわされ、和泉にぐっと引き寄せられた。さっきとは打って変わって、和泉は雌のオーラを出しながら、妖艶に笑いかけてくる。

「ほんっと、お前には敵わねえわ」

要は和泉の体にそっと手を這わし、持てる思いすべてをぶつけるかのような、激しいキスをした。


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