人間×ハンバーガー
嫌わないで、どうか許して、食べてほしい。そんな思いを込めながら謝り続けていると、冷やし終えて痛みが引いたのか、人間がもう一度手を伸ばしてきた。自分の声が彼に届いているはずもないのだが、まるで思いが通じたようで、純粋に嬉しく感じる。
今度は両手でしっかりと掴まれた。人間との距離はだんだんとなくなっていき、もう口が目の前まで迫っている。
――早く、早く食べて。僕をあなたの一部にして。ほかの何よりも傍にいさせて。
ぷすり、とバンズに歯がかかり、つるっとした茶色の表面に真っ白な亀裂が走る。ハンバーガーは歓喜で身を震わしながら一筋の涙を流した。
――ああ、これで僕はこの人間の血となり肉となり、一生を共にするんだ。
霞みがかっていく意識の中で、ハンバーガーはもぐもぐと自身の咀嚼される音を聞く。
「なんかこのハンバーガー、しょっぱい気がする……」
ごくりと最後の一口を飲み込み、この世にも不思議なハンバーガーを食べた人間は、なんとなく思ったことを口にした。すると、そんな小さな自身の呟きに呼応するように、なぜか涙が流れてくる。
「あれ、なんでこれ、止まらないんだろう」
次から次へと溢れてくる涙に、どうしたらいいのかわからない。だが、じんわりと胸が熱くなる感覚に、心がひどく満たされていく……。
ガヤガヤと騒がしい店内の一角で、この人間は首を傾げながら、ひっそりと理由のわからない涙を流し続けた。
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