人間×ハンバーガー
まさか、恋に落ちてしまったというのか。食べられるためだけに作られ、一瞬で消えてしまうハンバーガーが。それも、今から自身を食べようとする人間に。
――そうか、この人間に食べられるのか。この人間のためだけに僕は作られた。この人間の血肉となって、僕は一生この人間と共に生き続けられる。
それはなんとも言えない甘美な響きを纏って、ハンバーガーを酔いしれさせた。先程感じた虚しさなど、もはやどうでもよくなっている。
「お、空いてる席発見」
席を見つけた人間は、ことり、と静かにトレイを置いた。
――もうすぐだ。もうすぐこの人間と一つになれる。
人間が椅子に座るのを感じながら、ハンバーガーは食べられる瞬間を今か今かと待った。
「うっし。それじゃあいただきます」
行儀よく手を合わせる人間に、いっそう思いが募っていく。
――そんな、いただく、なんて。むしろ、僕をあなたの一部にしてくれてありがとう、と伝えたいぐらいなのに……。
節くれだった大きな手がゆっくりと近づいてくるにしたがって、少しずつ自身の温度が上がっていくのがわかる。人間の手がついに触れた、かのように思われたその瞬間、
「あっつっっ」
ほんの一瞬触れただけで、すぐに手は引込められてしまった。
――なに、どうして引込めてしまうの。僕を食べてくれるんじゃないの。
なんで、どうして、と疑問ばかりが思考を埋め尽くしていく。
「なんだ、いっつもこんなに熱かったっけ」
びっくりした、といいながら火傷した手を飲み物で冷やしている人間に、ハンバーガーははっとして必死で謝罪を述べる。
――ご、ごめんなさい。違うんだよ、そんな火傷なんてさせるつもりじゃなかったんだ。本当にごめんなさい。
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