ノンケ×俺様健気
そう叫んでから冷静になったのか、榎本はさっきとは対照的に顔を真っ青にして俯きながら震えている。
「おい、大丈夫か」
「っ違うから!」
震える榎本に手を伸ばそうとすると、勢いよく顔を挙げられて俺の手は行き場を失ってしまった。
「ホント違うから。いや、違くないんだけど、そうじゃなくて…。とにかく違うから!」
榎本は、目に薄い膜を張りながら意味の分からない叫びを残して走っていってしまう。呆然としていると、「いーしっくら」と手を叩き落とされた友人が楽しそうに声をかけてきた。
「んだよ」
ぶっきらぼうに返すとふふふ、と気持ち悪い笑みで対応される。それから自身の顔をとんとんと叩きながら、「んー。顔、真っ赤だよ」と心底楽しそうに告げられたその言葉にカッと頭に血が上るのがわかった。
「ふっざけんな。なわけねーだろ、目え腐ってんじゃねえの」
「そう?なら俺の見間違いかもね」
「たりめーだ。俺が榎本にときめくわけない、男とか、マジないから」
そう叫んで、綺麗に盛り付けられた煮物に箸を突き刺す。「おお怖っ」という友人の声をBGMにして、俺はただひたすら自身に言い聞かせた。
「俺はノンケ、俺はノンケ。男に興味なんてない、榎本が可愛く見えたとかそんなことは決してない。断じてありえない」
――そんなこと言ってる時点でだいぶ終わってると思うけど、なんて友人の呟きには耳に蓋をして聞こえないふりをした。
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