ノンケ×俺様健気



「お、お前になら俺を抱かせてやる!光栄に思え!」
「あ、結構です。俺、別に男に襲いかかるほど飢えてないし。てか今日これから合コンの約束入ってるし」

――だから、どいてくんない

そう続けようとした言葉は榎本の大音声によってかき消されてしまう。

「な、なんで。この俺が、自ら、体を差し出してやる、と言ってるのに」

顔を真っ赤にしてこの世の終わりかというくらいの絶望を浮かべている榎本に、俺ははあ、と溜息をついた。

「なんで受け入れられる前提なんだよ、お前は。自分の言うことが絶対だとでも思ってんのか、馬鹿じゃねえの。俺はな、そういう勘違い野郎は大嫌いなんだよ。大体男はお呼びじゃねえし。つか男じゃなくてもお断りだお前みたいな奴」

笑顔を浮かべて一息で言いきると、榎本は「そんな、ありえない」などと呟きながら呆然としている。その顔は、まあ整っていると思う。男臭くはないが男らしい顔つきで、我が学園では一番の男前だともてはやされているくらいだし。
しかし、男に興味のない俺からしてみれば顔の善し悪しなど正直どうでもいい。小さくて女の子みたいな奴ならまだしも、何が嬉しくて自身よりでかくてゴツイ野郎に押し倒されなければならないのか。しかもそんな野郎に突っ込めだとか、絶対無理だろ。
チラリと壁にかけてある時計を見ると、榎本に捕まってからすでに10分が過ぎていた。

「あ、やべ。合コンに遅れる」

腹筋の力をフルに使って起き上がると、反動で榎本が床にゴロリと転がる。突然床に放り出されたことで目を白黒させている榎本に俺は笑顔で言葉をかけた。

「話はそんだけだろ、じゃあ俺行くな。俺好みの小さくて控えめで料理上手な可愛い子いるらしいし、遅れられないんだよ。じゃあな」
「あ、石倉。まだ話は終わってない」

後ろから榎本の俺を呼び止める声が聞こえてくるが、無視してただひたすらに俺は走る。頭の中は今日の合コンでいかにその女の子を落とすか、それだけで一杯だった。

「石倉の好みは控えめで料理上手……」

だから一人取り残された教室で、メモを取りながら榎本がこんなことを呟いていたなんてこの時の俺が知るはずもない。


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