リーマン×警備員


「えーっと、確か……あった。これどうぞ」

笑顔で手を突き出してくる井上に、内心ハアハアと悶えながらも視線をやると、
「……いちごみるくあじ」
ごつごつと武骨で大きな手にピンク色の飴がちょこんと鎮座していた。

「あの、これは」

まさかそんなものが出てくるとは思わず、井上に恐る恐る尋ねてみる。すると、彼は男らしいきりりとした眉をハの字型にしてまさにしょぼん、という顔をしながら口を開いた。

「いちごみるく味はお嫌いですか?だったらすみません、今はこれしかなくて」
「いや、嫌いなことなんてないです。むしろ大好きですよ、いちごみるく味」

慌ててそう返すと、井上は今までのしょぼんが嘘だったかのようにぱあっと笑顔を作って「はい、どうぞ」といちごみるく味の飴を渡してくる。

「ありがとうございます。でもどうしてこれを?」

ピンクの可愛い袋に包装されている飴を受け取りながら聞くと、きょとんとしながら井上は答えた。

「片桐さんが疲れているとおっしゃったから。ほら、疲れている時には甘いものっていうじゃないですか。だから、ね」

――それで疲れを癒してください。

言いながら恥ずかしくなってきたのか井上は僅かに頬を染めている。片桐はそれに「ありがとうございます」と興奮を抑えながら震える声で返し、手の中の飴をぎゅっと握りしめた。


それから少し他愛もない話をして、片桐は一人寂しく自身のマンションに帰ってきた。しかし井上のはにかむような笑顔が頭から離れず、ここ一時間ほどベッドで悶々と過ごしている。思い出したようにポケットから彼にもらった飴を取出し、包みを破って電気に透かしてみた。キラキラと光るそれは、まるで宝石のようだ。それを口に放り込みコロコロと転がしていると不思議と幸せな気分になる。片桐は一日の出来事を漠然と思い出しながら、今日はいちごみるく記念日にしよう、とそう決意した。


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