入学式3


「どういう、こと?」

――いきなり殺してくれなんて。
園田は訳が分からずにそう尋ねる。すると、河居は興味がなくなってしまったのか、もうこちらを見ていない。

「河居」

河居ともっと話してみたくて注意を引こうと声をかけるが、まったく反応しない。まるでなきもののように扱われるのが悔しくて、園田は大股で彼に近づき腕をつかんだ。

「河居」

フェンスの向こう側をじっと見つめて離れない視線を無理やりこちらに向ける。が、その顔にあまりにも生気が感じられなくて、園田はぞっとした。本当に生きているのかと疑わせるような細さと白さに、思わず手を握ってやる。

「っつ、めた…い」

河居の手は驚くほど冷たかった。まさに氷のような手。恐る恐る河居の顔を窺ってみると、なんて人形のような顔をしているのだろう。感情という感情をすべて削ぎ落としてしまったかような顔に、園田はただただ空恐ろしさを感じた。

「河居は、死にたい、の?」

区切りながらゆっくりと問いかけると、河居の目が微かに揺れる。彼の見せた初めの反応に、園田はほっと息をついた。急かすことなく目を見ながら待っていると、河居は躊躇いながらも小さく口を開く。

「死にたいんじゃ、ない。俺は、」

そこまで言って言葉を切る河居に、相槌を打って話を促す。唇を震わせながら彼がもう一度何かを言おうとした時、突然の電子音に遮られた。発信源は、河居。彼は途端に人形のような顔に戻り、電話に出てしまう。音が小さいせいで会話の内容は全く聞こえないが、その間河居が言葉を発することは一切なく、園田は首を傾げた。

「帰るの?」

携帯を切り鞄になおしているのを見て声をかけるが、返事は返ってこない。もとより返ってくるとは思っていなかったが、園田は少し寂しさを感じる。
スタスタと扉に向かって行ってしまう河居の背中に、園田は声をかけた。

「河居、俺は園田っていうんだ。園田真尋。これからよろしくな」

振り返ることなく河居は出て行ってしまったが、園田はあの儚くて今にも消えてしまいそうな存在を大切にして人間にしてやりたいと、そう思った。


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