幼児×不良


「ちゅーしてくれないの?」
「お前な、自分が何言ってんのかわかってんのか」
「わかってるよ」

自信満々に言い切るヒロに静は恐る恐る質問する。

「お前は、その、ちゅーがどういうもんか理解してるか」

ちゅー、だなんて言い方が妙に気恥ずかしくてどもってしまい、それが余計に静を辱める。高校では不良のボスだなどと言われているくせに、なんという体たらくだと自信を殴りつけてやりたい気持ちになったが、ヒロにしーちゃん、と呼ばれることで意識を取り戻す。

「だってちゅーってすきなひとどうしがするんでしょ?ぼく、しーちゃんのことだいすきだもん。しーちゃんはぼくのことすきじゃないの?」

目に見えて落ち込み始めるヒロに静は慌てて返した。ヒロは一度不貞腐れると至極面倒くさいのだ。

「いやな、俺もヒロのことは好きだけどよ。ちゅーっつうもんはな、もっと大事にとっとかなきゃなんねえんだよ。そんな簡単にしていいもんじゃねえんだぜ。だから、っ……」

だからほかのことにしろ、とそう言おうとしたのだが、唇に触れたやわらかいものに遮られてしまう。実際に触れた時間は極僅かのはずなのに、静にはそれが何分も、何時間も続けられたように感じられた。

「…ヒ、ロ」

震える声を絞り出すと、ヒロはいたずらっ子のような笑みを浮かべてえへへ、と笑う。

「これでぼくとしーちゃんはりょうおもいね。うわきしちゃだめだよ」

めっ、と注意してくる10歳以上も年下のガキにときめいてしまったなどと、そんな事実をなかったことにしたくて、静はただ、そうだな、と返すことしかできなかった。


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