入学式2


人の流れに従い体育館へ行き、アナウンスとともに入学式が始まる。もしかしたら彼がどこかにいるのではないか、そう思い目だけで確認してみるが、それらしい人物は見つからない。そうやってキョロキョロとしているといつの間にか入学式は終わってしまったようで、アナウンスの指揮で教室へと戻る。

教室ではクラス全体での自己紹介が行われ、園田も当たり障りのないことを言って適当にその場をやり過ごした。園田にとって彼のいない教室は味気のないもので、たった一度顔を見ただけだというのに、と自嘲の笑みすら湧いてくる。
自己紹介が最後までいくと、先生からクラスの名簿が配られた。園田はプリントをもらった瞬間、すさまじい勢いでそれに目を通す。今日この場にいないのは彼ひとり。目当てのものはすぐに見つけることができた。彼の名前は、河居。河居遼、というらしい。口の中で何度も転がして響きを馴染ませる。彼に一つ近づいたと思うだけで不思議な幸福感に包まれた。

「それじゃあ、今日はこれで解散な。明日は午前中だけで、委員会決めとかするから。はいさよなら」

先生のその一言で、今日のこの退屈な集まりはお開きになる。教室を出て行った先生を、「肇センセ待ってー」と底抜けに明るい声が追いかけていった。それを側きりに、仲良くなった者同士が遊びに行く計画を立て盛り上がっていく中、園田はぼうっと外を眺めた。コの字型の校舎で尚且つ横棒のところに園田の教室はあるため、向かいの校舎がよく見える。錆びたフェンスに囲まれた屋上に視線を向けた途端、園田は走り出した。

――見つけた、

屋上にぽつりと佇む黒い影、あれはきっと彼だ。椅子が倒れたのも気にせず、ただただ夢中で走る。階段を2段飛ばしで駆け上がり、勢いよくドアノブを捻った。ガンッ、と鉄と鉄のぶつかる嫌な音の先には、園田がずっと探していた彼。

「……っ河居」

彼の名を震える声で呼ぶ。緊張のあまり口は乾ききっていて、音を発しようとすると喉がピリリと痛んだ。もう一度、今度は震えないように力を込める。

「河居、遼…だよな」

確認の意も込めてフルネームで呼びかけると、後ろを向いたまま微動だにしなかった彼がゆっくりと振り向く。しっかりと正面から顔を見たことで、この人物があの彼だと確信した。
やっと見つけた彼と話したいことは山ほどあったはずなのに、いざ目の前にすると言葉が出てこない。何か言わなければ、と思えば思うほどどツボに嵌ってしまい悔しさで園田は唇を噛んだ。

「…、きみは、」
「えっ」
「きみは、俺を、殺してくれるの」

二人の間を四月にしては冷たい風が通り抜ける。

これが園田と河居の出会いで、初めて交わした言葉だった。


 2←prev*next→4

main
top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -