入学式



今日は待ちに待った入学式。ダークグリーンの真新しい制服に袖を通し、園田はこれから始まる高校生活に胸を躍らせた。初めてのネクタイに、初めての革靴、そして初めて会うクラスメイト達。何もかもが初めて尽くしで、いつもと同じはずの風景も心なしか輝いているように見えた。

学校に着くと係りの人間に従って、先に自身の教室へと向かう。時間がまだ早いせいか誰もおらず、静まり返っている空間に何となく裏切られた気分になる。出席番号順に割り振られた自身の席は一番前のど真ん中、つまり教卓の前だ。何気に特等席で、沈みかけていた気分が浮上し始める。
頬杖をついて退屈をやり過ごしていると、ガタガタと椅子の音がして隣の席の奴が来たのだとわかった。

「おはよう」

第一印象が大切だ、と笑顔を浮かべながら声をかけると、青白い顔に全てを呑み込んでしまいそうな黒々とした目、そして何よりも目の下で異様な存在感を放っている隈に言葉が出てこない。呆然としていると、ふい、と顔を背けられ、彼は教室を出て行ってしまった。

それから暫くすると少しずつ人が集まり始め、閑散としていた教室に活気が満ちはじめる。近い席の奴らから声をかけられ、自己紹介をし、これからよろしく、と言葉を交わしあう。それは確かに自身の望んだものであったが、園田はそれに対してどこか空虚を感じていた。

――キーンコーンカーンコーン

やけに間の抜けたチャイムが鳴り響くと同時に、前の扉が勢いよく開く。出て行ってしまった彼が帰ってきたのか、と期待を込めて見遣るが、彼とは似ても似つかない人物で園田はがっくりと肩を落とした。扉を開けた人物はおそらくこのクラスの担任なのであろう、ガッチリとした体躯をびしっとスーツで包み込んでいるその姿は大人の色気が感じられる。その人物はしっかりとした足取りで教卓まで来ると、形のいい唇で言葉を紡ぎ始めた。

「今日からこのクラスを受け持つことになった、金森肇だ。一年間よろしく頼む」

そう告げられ、ああ、やはりこの人物が担任なのか、と一人納得する。担任、金森先生は隣の空席を一度確認して、彼のことを知らないかと聞いてくる。しかし教室を出て行ったきり彼は顔を見せていないため、園田は、わかりません、と答えることしかできなかった。そうか、と先生は渋い顔をして今日の一日の流れを説明しにかかる。
消えてしまったあの彼はどういう人物なのだろう、いったいどこへ行ってしまったのだろう、園田の頭の中は彼に関する疑問で一杯で、先生の言葉など耳にすら入ってこなかった。


「それじゃあ今から体育館に移動するから廊下に出席番号順で並んで」

先生のその言葉でクラスメイト達がガヤガヤと移動を始める。消えてしまった謎の彼のことで頭がいっぱいだった園田も、周りの騒々しさに意識を取り戻し遅れないよう廊下へと並んだ。


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