プロローグ



園田は部活生の掛け声をBGMに、一人夕暮れでオレンジ色に染まる廊下を歩いていた。
向かう先は屋上。この学校に入学してから3年間、1回も欠かしたことのない習慣のため、今日も一歩一歩階段を上っていく。明日は卒業式で、この習慣ももう最後なのだと思うと足が止まってしまいそうになる。そんな自身を叱咤しながら、園田は屋上の扉へと手をかけた。一度深呼吸をしてからゆっくりとドアノブをまわしていく。ギギギ、と古めかしい音を立てながら開いたその先には、習慣である人物が心許無さ気に立っている。

「河居」

壊れ物を扱うかのように優しく声をかけると、彼、河居と呼ばれた人物が気だるげにこちらへ振り向いた。

「園田。今日こそは俺のこと殺してくれるの」

小さいがよく通る声でぽつりと呟く河居に苦笑して、違うよ、と首を振る。

「今日は、河居と話しに来たんだ」
「話……」

河居に近づき、目の下に陣取る決して薄れることのなかった隈にそっと手を添わせる。くすぐったかったのか河居が身を震わせたところで手を離し、フェンスに凭れ掛かりながら園田は口を開いた。

「うん、話。明日は卒業式で、もう河居とこうやって時間を過ごすこともないだろうから。最後になんか話したいと思って」
「…、いいよ」

少し間をおいてからそう答えた河居に、とりあえず座ろうかと提案する。

「で、何を話すの」

体育座りをした膝に顎を載せて聞いてくる彼は、今にもいなくなってしまいそうな儚い何かを感じさせて、園田は心臓がきゅっと締め付けられる気がした。

「昔話を、したいんだ。河居と初めて会った時のこととか、河居とここで話したこととか、なんでもいい。とにかく、河居と共有したものを最後にもう一度共有したいんだ」
「ふぅん」

つまらなそうに呟く河居に、嫌かと尋ねると、別に、と素っ気ない返事が返ってくる。

「じゃあ、初めて会った日、入学式から話そうか」
「うん」
その言葉をきっかけに、園田は入学式へと思いを馳せる。そして、思い出を噛み締めるかのように言葉を紡ぎ始めた。


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