馴れ初め編
バアン、と大きな音をたててドアが開く。肇はまたか、と内心呆れつつも無表情を装ってドアの方に顔を向けた。
「またか、毛利。ドアは静かに開けろって言ってんだろ。つうか、用もねえのに来んな。さっさと自分の教室に帰れ」
「えー、肇センセ冷たい!俺はこんなにセンセのこと好きなのに。それに今回はちゃあんと用がありますよ」
コーヒーを飲みながらまるで犬を追い払うかのようにシッシッと手を払う肇に、毛利はむぅと頬を膨らませて抗議した。
「高校生にもなった野郎がんな顔したって可愛くとも何ともねえよ。で、用は?」
今の時間帯は昼休み。肇は今にも騒ぎ出しそうな腹の虫を一刻も早く鎮めるため、コーヒーを机の上に置き毛利に体ごと向きあった。
「えへへ、センセ実はね…」
そこで言葉を切る毛利に若干の苛立ちを抱きながらも次の言葉を待っていると、毛利は笑みを一層深めて鞄から風呂敷に包まれた何かを取り出した。
「じゃじゃーん。俺の特製手作りお弁当です」
効果音でどやぁ、とつきそうなほどのいい笑顔で毛利曰く特製手作りお弁当を突き出してくる。普段から好きだの何だのいってつきまとって来る奴ではあったが、まさか弁当まで作って来るとは思わなかった。驚きで言葉を発せずにいると、毛利は気分を害してしまったのではないか、と不安そうにこちらの様子を伺っている。その様は飼い主の帰りを待つ犬を彷彿とさせ、肇は思わず吹き出してしまった。
「くくっ、お前何つう顔してんだよ」
手を伸ばして自身より少し低い位置にある毛利の頭に手を伸ばす。そのままわしゃわしゃとかき混ぜてやると、毛利は嬉しそうに目を細めた。
「センセ、俺ね、センセに食べてほしくて一生懸命作ったんだ」
「そうか、そりゃありがとな」
「嬉しい?」
「まあ、嬉しいか嬉しくないかっつったら嬉しいな」
「本当?じゃあ、貰ってくれる?」
と目をキラキラさせて聞いてくる毛利に冷静に答える。
「いらねえ」
「はあ!?何で。今の流れ完璧貰ってくれる感じだったじゃん、嬉しいっつったじゃん」
「それとこれとは別」
毛利の目の前に手を突きだしてノーと表現すると、毛利は納得いかないのか、更にくいついてきた。
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