会長様とプールの乱


「いいんだよ、俺の部屋に来る奴なんて限られてるし。それにこんな時間にくるのなんて棚町ぐらいじゃん」

にぃっと唇をつり上げて笑えば、呆れ顔の棚町にコツンと額を叩かれた。そして棚町は勝手知ったる様子でずかずかと歩を進め、台所へと入っていく。ここ最近ですっかり慣れてしまった情景に、自然と笑みがこぼれた。

「今日の飯は何?」
「それは出来てからのお楽しみって奴だな」
「ふーん、まあ棚町の飯は美味しいしなんでもいいけどな」
「そうか」

台所から聞こえてきたなんとなく嬉しそうな声に、俺の気分も上昇していく。棚町にハゲがバレてから、こうして俺の夕飯を作ってくれるようになったわけだが、そのおかげでほんの少し髪の調子もよくなってきた気がする。

(このままハゲも治っちゃうんじゃねえの?!脱ハゲとかふおおおおおおおおお棚町様々だなァおい……って、ダメだ!その前プールがあんだよプールだプール!プールとかもう死にたい絶望しか見えねえ)

「なぁに百面相してんだ、ほらテーブル片付けろよ」

ソファでゴロゴロとしていた俺に、棚町がそう促す。ノロノロと片付けたそこに並べられた料理は、この上なく美味しそうで輝いて見える。

「これが所謂料理男子か……チッイケメンめ。神よ、貴方はいったいどこまで俺を苦しめるのか。俺はハゲで悩み苦しんでいるというのに。ああもうプールやだようプールプールプールプールうわああぁあああああああ「うるさいぞ」……」

奇声を上げながら頭を抱える俺の頭に、棚町によるチョップが入った。これは地味にいたいです、はい。

「でもプールだよプール。プールって水の中に入るんだよ。つまり頭が濡れるわけだ。頭が濡れる=ハゲが目立つ。これはもう自明の真理なのだよ棚町。つまり俺はもう死ぬしかないわけだ」

差し出された箸を無言で受け取り、美味しそうなレバニラのレバーをつんつんつつく。

「ああなんかレバーにも死ねって言われてる気がしてきた」
「なわけあるか、行儀が悪いから箸でつつくのをやめろ」
「ううだってさあ……」

レバーから棚町へと視線をずらす。すると、なんともむず痒い優しい目とぶつかった。

「大丈夫だバレやしないから」
「何でそんなこと言えんだよ」


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