ソーセージの逆襲


つるりとしたピンク色の表面には、目なんてあるはずがないのに……。強い憎悪の視線を感じ、背筋にいやな汗が伝った。

「自業自得……?」
「そうだよ自業自得。こんな状況、理不尽で可笑しいって。なんで自分がこんな目に、って思ってンだろ。でもその原因を作ったのは、お前」

ソーセージからの突き刺さる視線に怯みかけている心を隠すかのように、俺は声を張り上げた。

「っ意味わかんねえよ!俺が何したってんだ。俺はただ食おうとしただけだろ。なのに何でこんなことされなきゃなんねえんだよ!俺はソーセージのこと食ってやろうとしたのに。有り難がられる謂われはあってもそんなっ……そんなっ……!」
「……食ってやろうとした?………有り難がられる?ハッ!誰がいつてめえに食ってくださいっつったンだよ、ええ?!大体何様のつもりだよ人間様ってか。神にでもなったつもりかこのクソ野郎が。幼稚園で習わなかったか?食べ物はなァ、遊び道具じゃねえんだよ。それなのにてめえ等人間ときたらいっつもいっつも俺らで遊びやがって!何が『ソーセージエロく食えた方が勝ち』だ下らねえことしやがって。ぶっ殺すぞ!そんなに俺らでお遊びしたいンならなァ、跪いて『エロく食べさせてくださいソーセージ様』くらい言ってみろっつうんだよこの雄豚が!!!」

吃驚した。
人間に食べられるものであるはずのソーセージが。
言ってしまえばたかがソーセージ如き。
そんなものが、こんなに声を荒げて抗議してくるなんて。

「覚えがないとは言わせねェ」



……確かに俺には覚えがあった。
こいつが言っているのは恐らく三日前の飲み会。
久々の飲み会で調子に乗って飲み過ぎ、べろんべろんに酔っ払った時のことだ、と思う。
あの時はただただ気分が良くて、友人達の下らないお遊びについ便乗してしまったのだ。
『誰がエロくソーセージを食べれるか選手権』なんて普段なら絶対に参加しないのに。

「そんな、あれだけで……」
「あれだけえ……?!あれだけ、だとてめえ……!!」

そんなたかが一回遊びに使われたから、といってこんな理不尽なことに巻き込まれるとかたまったもんじゃない。
そんな思いの隠った呟きに、ソーセージが目敏く反応してくる。もしこいつに顔と呼べるものがあったなら、きっと般若も素足で逃げ出す顔をしていることだろう。

「あれだけ、とかほざくンならお前は我慢できるンだよなァ」
「がまん……?」

我慢、だなんて不気味な響きだ。嫌な予感しかしない。

「あれだけだなんて言う位なんだ。こんな、食おうとするものが喘ぐぐらいのこと何でもないだろお前ら人間様にとってはよ」
「食おうとするものが喘ぐって」
「ソーセージ、竹輪、アイスにソフトクリーム……お前等に恨み持ってる食い物なんて山のようにいるぜ」
「なっ……ソイツ等全部が喘ぐっつうのかよ!」
「耐えて見せろよォ人間様」

頭の中でソーセージの言葉が反響する。
背中にはじっとりと汗をかいている。
食べ物が喘ぐなんてとんでも体験、いったいいつまで続くのか。

こうして、俺とソーセージ。否、人間と食べ物の戦いの火蓋が切って落とされた……。


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