青い鳥は手の中に


「おねいさーん!」
「ひゃあっ!」

ばふん!と胸めがけてダイブしてきたアラジンくんが落ちないように咄嗟に抱き締めると、にっこり笑顔でお礼を言われる。それを見てしまえばこちらとしては顔をふにゃふにゃにする以外どうしようも出来ない。だって可愛らしいのだ。ヤムライハやアリババくんは「こんのエロガキ!」とか「何してんだよ羨ま…ゲフンゲフン」とか何とか言ってぎゅうっと抱き付いてくるこの小さな体をわたしから離そうとよく躍起になっているけれど、逆になんでそんなに勿体ないことをするのだろうか。癒しと言う文字を人間にしたといっても過言ではないアラジンくんだ、わたしとしてはいつでも「さあ!わたしの胸に飛び込んでおいで!」である。まあ遠慮を知らず胸を鷲掴みにしたり顔を埋めてきたりと、多少対応に困ったりはするけれど。
しかしこのまだ十歳だというのにおっぱい大好きおねいさん大好きな男の子が、あの有名なマギだとは。半年ほど前、屈強な体躯の男たちに襲われそうになっていたわたしを救ってくれた彼を見たとき何かしら輝くようなオーラは見えても、まさかそこまで予測することは出来るはずなかった。人というものは第一印象だけではわからないものなのだ。

「もう。いきなり飛び付いたら危ないでしょ?」
「ごめんよ。けど、おねいさんのおっぱいが僕を呼んでいたのさ!」
「………」

可愛らしい顔でとんでもないことを口にするこの子の将来が、少なからず心配ではある。いつかあの覇王よりも厄介なものになってしまうのではないだろうか、とか。因みにあの王様に手を出されそうになったことは数知れない。そういった点からも考えると、彼のようになる、なんてことは絶対に避けなければならない。そんなことは他の誰でもなくこのわたしが許せないし許さないからだ。わたしの命に変えても絶対にあのスケコマシ野郎のようにはさせるものか!

「おねいさん?」
「わ、ごごご、ごめんアラジンくん、なにか話してた?」
「ううん。そうじゃないけれど、なにか悩んでいたように見えたから」
「心配してくれたの?」
「当然じゃないか!」

天使だ。天使がここにいる。うっとりと胸に頬擦りをしながら話しかけてくる彼にちょっぴり咳払いをしたくなったことは目を伏せておこう。
思えばアラジンくんはいつもわたしを気にかけてくれている気がする。助けてくれたときからずっとだ。それなのにわたしは彼になにも出来ていない。強いて言えばこの、並みより大きな胸を提供してあげているくらいで…。そもそも彼はわたしにすごく懐いてくれているみたいだけれど、要するにそれってこの胸のおかげなのでは。もしもわたしがつるぺたであったとすると、アラジンくんはあの時助けてさえくれなかったかもしれない。そう考えたら一気に血の気が引いてきてずううんと影が纏うのが自分でわかった。

「お、おねいさんどうしたんだい?しっかりしておくれよ!」
「アラジンくん…アラジンくんはおっぱい好きなんだよね?」
「えっ、うん大好きだよ!」
「笑顔萌え。…あなたがわたしに優しくしてくれるのは、わたしがおっぱい大きいからなのかな…」

口にした途端に悲しさがどっと押し寄せてきて、今さら言ったことを後悔した。多分わたし、今までにないくらい落ち込んでる。無意識にアラジンくんを抱き締める腕に力を込めてしまって痛くしてしまわないかと心配にはなったけれど、どうにも緩めることは出来なさそうだった。すると彼のわたしの背中に回す腕も、子供にしては力強いものになった。俯きがちだった顔をそうっと正面より少し下の位置に上げると、アラジンくんがわたしよりも悲しそうな顔をしてこちらを見つめていた。

「アラジンくん…?」
「おねいさん、僕はね。おねいさんだからこんなに好きなのさ。きれいで優しい心が、とても好きだから、僕も優しく出来るんだ」

ふわりと微笑んでそんな言葉をかけてくれた彼を見て、わたしはなんてバカなことを考えていたのだろうと思った。アラジンくんは利益や価値などは関係なしで、救いを求める人が目の前にいれば、助けることが当たり前だと考えられる子だ。そんな彼のきれいな心にわたしは惹かれていたんじゃないか、はじめて会ったあの時から。

「アラジンくん、ごめんなさい」
「え?」
「わたしもあなたのことがすごく好きなのに、誤解をしてしまっていたみたい」
「おねいさん」
「だから謝らせて。ごめんね。…でももう大丈夫!アラジンくんのこと、改めてわかったよ。あなたがとっても素敵だっていうことがね」

今度はわたしがにっこり笑顔で返す番だった。アラジンくんは「照れるなぁ」なんて顔を赤くさせていたけれど、あなたがくれた言葉を思い出すとわたしのほうが赤くなって、嬉しくなってしまいそうだよ。

青い鳥は手の中に

「あ、もちろんおねいさんのおっきなふわふわおっぱいも大好きだよ!」「…そ、そう…」

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