短編
醜い翼の子

※男主 従者の1人

セフィル様は、とても美しい翼の持ち主だ。エンゼでは、翼は大きいもの程良いと言われており、セフィル様は王族でも屈指のものだった。尚且つ、とても白く、美しい。絹のように滑らか。僕はそんなセフィル様に仕える事が幸せだった。
そんな僕の翼は大変醜いものだ。平均より小さめの翼、1度、賊どもに酷い目にあったことがあり、疎らで尚且つ質の悪い翼であった。そんな僕が何故セフィル様に仕えられているのかが不明だが、僕は別に構わなかった。素敵な方に仕えられるのが、幸せだから。

「名前。」
「はい、セフィル様。お呼びでしょうか?」

ある日の事だった。セフィル様の自室に僕が呼ばれた。それは従者だから別に不思議でも何でもないのだけれど、僕はセフィル様の唯ならぬ雰囲気に少し恐怖を覚えていた。

「名前…先日出かけていたな。」
「…はい。実家に顔を見せに。」
「しかし…城に帰ってきた際、お前は傷だらけだったと聞いた。何故?」
「そ、れは……。」

僕は思わず視線を逸らしてしまった。そう、あの日。実家に帰ったあの日。城に帰る際に出会ってしまったのだ。僕の羽を、無残に散らした者達に。

「ちょっと、面倒臭いことに巻き込まれてしまいまして…。」

そう言うしか無かった。僕の汚れた身体を、羽を、彼に知られたくなくて。

「……本当の事を、教えてくれ。」
「…!な、何故…。」

何故、嘘だと分かったのか。面倒臭いことには違いないのだが、本心ではない。もっと辛く苦しい事だ。それを何故、見抜かれたのか。セフィル様の強い瞳が僕を見つめ、暫しの静寂の後に僕が折れた。
そして、僕は初めて、家族以外に僕の醜い羽の理由を告げた。するとセフィル様は眉根を寄せて、やはり軽蔑されてしまったかと僕は思った。明日からセフィル様直属の従者じゃなくなりそう。それでも仕方が無い。だって、今までずっと近くに居れただけ奇跡なのだから。

「…犯人の顔は、分かるのか?」
「ええ、まぁ一応では御座いますが…。恐怖の方が打ち勝っておりまして、鮮明にとは言えませんが身体が覚えております故に、多分直ぐに分かります。」

そう言うとセフィル様は黙り、部屋に静寂が押し寄せる。嗚呼、きっと僕の処置について考えていらっしゃるのだろう。良くて汚れ仕事、悪くて解雇。どっちなんだろうなぁ…とぼんやり考えていると、セフィル様は僕の頭をぽんと叩いた。

「…私は今まで、名前の羽が何故その様に弱々しいものなのか不思議で仕方が無かった。しかし、聞く勇気が私には無く、今回の出来事を期に聞き出せて良かった。私は名前を傷付けた者を許さない。」
「え…?か、解雇じゃないのですか?」
「解雇?いえ、私が名前を気に入っているからそれは無いよ。君はこれからずっと私の傍に置く。君を傷つける者を私は許さない。君にトラウマを植え付けた彼等は見つけ出してその罪を背負わせよう。彼等はその罪を受けるべきだ。」

セフィル様の瞳には炎が宿っているように見えた。優しく気高いだけじゃない。そこには烈火の如く燃える炎がある。

「名前。だから、私の傍を離れないでおくれ。」

そしてその瞳には。確かな欲の色が存在していた。



セフィルはいいぞ。イベVer.、二周年になった今でも無いんですけども。



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