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緩やかにいま墜ちてゆく


僕は信じていた。
いつだって強気な彼奴が、勝ってくれるって。
僕を守ってくれるって。



「やっぱりあの子は天才だね」
「…まぁそうじゃろうなぁ。アイドル科にいるほぼ全ての者が、あの嬢ちゃんを気に入っておるし」
「そう言う零だって気に入ってんでしょ」
「我輩は巫都の方が気に入っておるよ」
「はいはい」

外からは2人のクラスメイト達が体育の授業に精を出す声が聞こえる。この2人は滅多な事がない限り授業…特に体育は参加しない。朔間零は日光が苦手だから。そして三条巫都は

「僕はさー……なーんで退学処分受けなかったのかなぁ」
「かなり今更な話では無いかえ?」
「まぁそうなんだけどさぁ。だってほら、僕って留年したし?それに、えーちは知ってるじゃん」

僕が女だって事。
三条巫都が呟いた言葉は静かな教室に響いた。朔間零は目を細め、三条巫都を見やる。本人は何食わぬ顔をしているが、内心穏やかではないだろう。

「えーちは生徒会長だよ。一番偉いんだよ。なのに僕に退学処分を言い渡さなかったんだよ。それだけじゃあ無い。えーちは僕1人だけの活動になってから何も意地悪しなくなったんだよ。腹立つよね。まるで、僕の相方が気に食わなかったみたいなさ。もう、腹立つってもんだよね。」

朔間零は分かっていた。
皇帝と呼ばれるあの男…天祥院英智は実際三条巫都の相方の存在が邪魔だったのだと。理由は明確だ。天祥院英智は三条巫都が好きなのだろう。2人組ユニット『papillon』を尽くぶっ潰した後、三条巫都が自分の元に泣きついてくると思っていたのだろう。しかし、皇帝の読みは外れた。三条巫都はこの学院で一番の権力者である自分を頼らず、五奇人の1人である自分…朔間零を頼って来たのだ。それは長年の腐れ縁というやつが理由だったのだが…。

「ほんっと、生徒会嫌い。えーち嫌い」
「それは我輩とて同じじゃ」
「……前の零、僕好きだったよ」
「おや。今の我輩は嫌かえ?」
「嫌じゃないけど」

嫌じゃないけど、好きでもないよ。
そう呟く三条巫都に朔間零は苦笑いを浮かべた。手厳しいのう。そう言って踵を返す朔間零。きっと部室に戻るのだろう。三条巫都も立ち上がり、そそくさとその後を追った。


緩やかにいま堕ちてゆく

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