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その鮮やかな笑顔の裏で


現実は、こうも惨くえげつない物だった。
キラキラした青春なんか、この学院には存在しない。
きっと、ずっとそうなんだと僕は半ば諦めていた。




「巫都ー…いい加減起きておくれ」
「嫌だぁ……」
「そろそろ嬢ちゃんが来るぞい」
「マジか」

じゃあ起きなくちゃ。そう言って起き上がった銀髪の少年は目の前の自称吸血鬼に微笑んだ。

「いやぁ、なかなかに快適だね」
「我輩の寝床を勝手に占領しおって…巫都は怖い奴じゃよ」
「褒め言葉?」
「悪態のつもりじゃ」

軽音部の部室には2人しか居ない。双子やわんこはどうしたのだろうか。まぁ、対して興味が無いやと溜息を吐いた巫都は今からやって来るであろう少女の為にといそいそと準備を始める。自称吸血鬼…朔間零はそれを眺めて呟いた。

「嬉しそうじゃな」
「んー…だってさ、あんな可愛い子にプロデュースされるなんて何て名誉ある事なのだろう。しかも僕はユニットは組んでない訳だから、彼女とマンツーマンで指導を受けられる訳だ。こんなにいい事は無いじゃないか」
「…………」

クルクルと踊る少年はそれは至極楽しそうであった。ボブショートの銀髪が、蛍光灯の光によりキラキラと光る。蝶をモチーフにした髪留めが異様に映えていた。
しかし、そんな少年を見ても朔間零は決して笑みを漏らさなかった。少年の言葉が引っかかったからである。

「巫都や…やはり、嬢ちゃんには言うべきじゃよ。元は、ちゃんとユニットを組んでいた事を」
「嫌だね」

ピシャリと、冷えきった声が返ってきた。
宇宙のような深い青色の瞳が陰り、少年…三条巫都は朔間零に近付いた。

「僕達は、死んだんだ」
「………」
「僕は、生きてるけど」
「なら、」
「あの子が死んじゃったから。papillonも死んだんだよ」
「……………」
「まぁ、捨てきれなくて…1人ぼっちなのにまだ名乗ってはいるけれど」
「学園からは、消されたユニットじゃな」
「うん」

えげつないね。
そう三条巫都が零した時、部室がノックされる音が響く。パッと顔を明るくした三条巫都は早々とドアの先の彼女を招いた。
彼女…あんずと仲睦まじく話す三条巫都はとても笑顔であった。朔間零はそんな少年、いや、『少女』を見て思う。

えげつないのはどちらだ。


その鮮やかな笑顔の

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