君に触れられない

I can't touch you.

「万里、最近いい事あった?」
「は?なんスか急に。」

深夜、至さんの部屋。軽快なBGMと画面のタップ音のみが響いていた。その沈黙を破ったのは部屋主の至さんだった。

「最近平日、ちょっと遅く帰って来てるらしいじゃん。」
「あー……そっすね。」

平日。監督ちゃんに言われて最近は渋々顔を出す回数が増えた学校。その帰り、いつもあの公園に寄っている。巫都に会うために。

「まさかコレ?」

至さんが小指を立てる。俺は思わず黙りこくってしまった。それによって至さんは女が出来たものだと勘違いしたらしく、「万里もやっぱオトコノコなのなー。裏切り者め。」なんて俺の事なんて一切見ずに吐き捨てた。

「(別に、そんなんじゃ…。)」

巫都は確かに女の子ではある。だが何よりアイツは幽霊。生きていないのだ。そんな相手に、俺は会うべく毎日公園に足を運んでいく。馬鹿馬鹿しいとは思っているが、止められないのだ。アイツの、あんな嬉しそうな顔。実体が無いのが酷く悲しかった。頭を撫でてやりたい。美味いモンを腹いっぱい食わせてやりたい。そして……。

「(あの髪型を直してやりたい。)」

長さバラバラに切られたあの髪。本人は覚えていないが、実はあれはアイツ自身が切ったものではないかと俺は推理した。何日、いや、何ヶ月か分からないが、きっとアイツは長い期間病院に入院していたのだろう。それによるストレスで、自分が切ってしまったのではないか…なんて。

「万里ー、ぼさっとすんなよ。」
「…あ、すんません。」

いつの間にか手を止めていたらしく、至さんに睨まれた。そうだ、今は限定クエストで素材を集めているのだった。イベントを走る為にも、此奴が落とす素材で作る武器が必要不可欠。

「(…ゲームとか、好きなんかな。)」

最近話すネタに尽きてきた。基本は今までの喧嘩に関する事。劇団に居ることは未だ話せていない。何か、小っ恥ずかしかった。実は、部屋からアイツ…巫都がいる公園が見える。小さくもなければ大きくもないあの公園。夜中、たったひとりでそこにいる彼女の事を考えると何故かイライラした。あんな場所に囚われているぐらいなら、一層の事成仏させて上げるべきではないかと。しかし、その方法をどこかで反対している自分がいた。巫都の存在を手放したくないと。そう、俺は幽霊相手にほの甘い恋愛感情の様なものを抱いてしまったのだ。全くもってバカバカしい。

「(………そう言えば巫都ちゃんってO高だったよな。)」

O高って事はあの兵頭と同じ高校だ。アイツに聞くのは何か癪。しかし天馬は撮影で忙しいにプラスして友達が少ないとか言っていたし……。

「……太一に聞いてみるか。」
「は?何言ってんのお前。それよか早く倒せよ。」

若干苛立った至さんの声。俺は小さく謝罪して画面に集中した。



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