話を聞くとこの幽霊巫都は病気で死んでしまったらしく、死んだ病院の近いこの公園に地縛霊として住み着いているらしい。らしい、と言うのは巫都本人も全然覚えていないかららしく、クラスメイトがたまたま公園に足を踏み入れ、そう話して自分の為に泣いてくれていた現場を目撃したからだそうだ。
「何の病気で死んだのか、何で私は此処に囚われているのか全くわかんないんだけどね。」
きいきいと古びた音を鳴らしながら、巫都はブランコを扱いでいた。これって、霊感ない奴がこの現場見たら独りでにブランコが動いてるってやつなんだろうなって意識の端でぼんやりと考える。俺ってそれをベンチに座って眺めてる不審者じゃねぇか。やべぇ奴だろそれ。
「私ね、此処に居るの別に嫌いじゃないの。ちっちゃい子達がね、すっごく楽しそうに遊んでる光景見るの大好きで。」
ぎぃ、と立ち漕ぎ時特有の重たい音が静かな夕暮れの公園に響く。巫都は幽霊らしくないキラキラした目で、夕焼け空を見つめた。
「後ね、近くに学生寮でもあるのかな?男の子達の楽しそうな声が聞こえるの!それのお陰で夜もそんなに寂しくないの。」
ドキリとした。確かにこの公園とMANKAI寮は近い。まさかここまで声が響くとは、どれだけバカ騒ぎしているんだ俺達は。
「…ごめんね、摂津くん。急に色々まくし立てちゃって。さっきも言ったけど…私が見えた人って摂津くんが初めてだから…嬉しくて……。」
「おー…。」
突然しょんぼりとうなだれた巫都に、やっぱり感情表現の激しい幽霊だなと再び思わされる。風が吹いていないのに揺れる巫都の金髪は、よくよく見ると毛先がバラバラである。
「(……?)」
そういう髪型な訳では無いだろう。ナチュラルメイクが施されているだけではなく、制服も着崩されている為、巫都は決してお洒落に疎いという事では無さそうだ。なのに、何故?切りそろえられている訳でも、何かしらセットされた髪型でもない。長い金髪はサラサラと無風なのに靡いている。本人は対して気にしている感じではない。そう言えば病気で死んだと言っていた。確かに入院していたのならば、お洒落とか気にしてる暇はねぇよな。そう自己完結を済ませる。
「ねぇ摂津くん。お家近いの?」
「あ?あー…まぁ、近い、な。」
本当にすぐそこだけど、何て言わなかった。
「もしも良かったら、また……。」
「……暇なら、な。」
「!うんっ!うん!暇な時で良い!またお話したい!」
ぶっ壊れた玩具みたいに何度も首を縦に振って。それがなんか可笑しくて、つい笑ってしまった。
何処にも行けない回遊魚
END