きまぐれストロベリーリップは愛を歌う
ハロウィンパーティをやる、とクリスに誘われたピアーズはそのまま一緒に彼の家へと向かった
さっそく自宅へとやって来れば魔女の格好をしたクリスの娘のクリスティンが駆け寄ってくる。その姿にクリスだけでなくピアーズも微笑んだ
「パパおかえりなさいっ!」
「ただいまクリスティン、ママはどうした?」
「おくでケーキつくってるよ」
「そうか…ほらピアーズに挨拶は?」
クリスに促されて側に立っていた男を見上げて挨拶をする
ピアーズも同じように返してやればそのままクリスティンは小さな両手をピアーズに向けて差し出した
一体なんだ、と首を傾げていると
「Trick or Treat!」
その言葉を聞いてピアーズは先程買ってきたお菓子の袋を出し彼女の目線に合うようにしゃがんでから差し出した
お菓子を受け取ってクリスティンは嬉しそうに微笑んだ。こうして見れば隊長に似ているなと頭の片隅で思った
「クリス、ピアーズおかえりなさい」
料理を作り終えたのだろう、ナナが奥から出てきた
クリスとキスを交わしてピアーズに向けて微笑めば彼はおじゃましてます、と声をかけた
「来てくれてありがとう、クリスティンがどうしてもピアーズを呼んで欲しいって」
「ピアーズ!こっちだよ」
ピアーズの大きな手を握ってクリスティンは奥へと連れて行く
何度か彼は家に遊びに来たことがある、自分とよく遊んでくれる為クリスティンはピアーズの事をとても気に入っていたのだ
今日のハロウィンパーティでもピアーズを呼んで欲しいとうるさかったぐらいだ
* * *
たくさんあった料理だがいつの間にか空いている皿が多くなっていた
ナナの料理はとても美味くて自然と手が進んでいく、クリスティンも作ったらしく形の変わったクッキーを何枚も食べさせられた
クリスの膝の上に乗りながら嬉しそうに微笑むクリスティンとそれを見守るナナの姿にピアーズはふと思った
自分の家ではこのようなパーティをしたことがなかったな、と
軍人の家系に生まれた家ではこの様な事はしなかった、自分の誕生日でさえも祝ってもらえただろうか?唯一覚えているのは自分が軍に入った時に祝ってもらえたぐらいだろうか?
「ピアーズ!おうまさんしてっ!」
「え…!あ、あぁ」
「クリスティン、食事中だから駄目だ」
「大丈夫ですよ隊長」
絨毯が引かれた場所へと行きピアーズは背中にクリスティンを乗せてやった
喜んでいるクリスティンの姿を見てクリスは幼い頃を思い出す
小さかったクレアもああして強請ってきて背中に乗せてやったことがあるな、と
* * *
遊びつかれたのか、仕事の疲れが溜まっていたのか
ソファーでピアーズとそれに引っ付いてクリスティンは眠っていた
そんな二人に毛布をかけてやると煙草を吸いにベランダに出たクリスの元へと向かった
少し肌寒くナナがやってきた事に気がついたクリスは灰皿に煙草を押し付けて上着を彼女に着せてやった
「ありがとうクリス」
「二人はどうしたんだ?」
「ソファーで眠ってるわ、せっかくだから泊めてあげましょ」
「あぁ…クリスティンは俺よりピアーズのが好きなんだな」
クリスの言葉にナナは思わず笑った
娘を取られてしまってクリスはヤキモチを焼いているのだろう
「今だけよ、普段はパパ、パパってうるさいのよ?私がいるのに」
「そう、なのか…?」
「えぇ……あ、そうだクリス」
ナナの言葉を聞いてホッとしていたクリスだが彼女に声をかけられそちらを見れば自分に向けて両手を差し出している
この動作はどこかで見たことがある
そうだクリスティンがピアーズにしていたのと同じだ
「Trick or Treat」
「……」
「あらお菓子ないの?……ならいたずらね」
クリスの頬を両手で挟んでキスをする
こんないたずらなら構わないな、とクリスは微笑むと今度は自分から彼女に口付けた
きまぐれストロベリーリップは愛を歌う
エトワール
121027