線香花火ってなんか切ないよね



夏休みもそろそろ終わりに近づき始めた頃

廊下を走る音が聞こえた



【線香花火ってなんか切ないよね】



「じょうたろ!」


なまえが目を輝かせながら承太郎の部屋の扉を開ける
煙草を吸っていた承太郎はなまえの方に振り向く


「どうした?」
「これこれ!つれてって!」


一枚の紙を承太郎に渡す
そこに書かれていたのは夏祭りの案内。花火大会や夜店などが並ぶらしい


「祭りか……」
「はなびってなに!?よみせってなに!?」
「……ジョナに連れて行ってもらえよ」


人が多いから俺は断る、と再び煙草を口に運ぶ
なまえは頬を膨らます


「じょなはようじがあるからダメって…じょせふもじょーすけもじょりーんもじょにぃもみんなダメって」
「………」
「おまつりいきたい……」


泣きそうになりながら拗ねた顔を見せるなまえに承太郎はため息をついた


「……俺からはぐれたりすんじゃねぇぞ、仕方ねぇから連れて行ってやるよ」
「! うん!ありがとじょうたろ!」


なまえは笑顔を見せて嬉しそうに部屋から出て行った
承太郎はその姿に思わず頬が緩む




祭り当日


「ほら、動くんじゃねぇ」
「ん」


承太郎に浴衣を着せてもらうなまえは早く祭りに行きたくて体をうずうずさせていた
せっかく祭りに行くのだから浴衣を着せて行け、とみんなに言われていた


「どうだ?きついか?」
「んーん、へいき」
「おぉ!可愛いじゃねぇか!!」


なまえの様子を見に来たジョセフが部屋に入ってきた


「似合ってるじゃねぇか、かわいいぞなまえー」
「えへへなまえかわいい?」
「かわいいかわいい!ちゅうしたいぐらい!」


ジョセフが微笑んでなまえの唇にキスをする。なまえも微笑んでお返しにとジョセフにキスをする
承太郎はため息をつき


「おい、イチャつける暇があるんならてめぇ連れて行ってやれよ」
「残念でした〜俺はこれから出かけるんだよ、なんだよ承太郎、おめぇもちゅうしてやろうか?」
「いらねぇよ!!行くぞなまえ」


なまえの手を掴みさっさと出て行く




祭り会場は予想以上に人が多かった
承太郎はなまえの手をしっかりと握る


「じょうたろもなまえとおんなじかっこう!」
「……着ていけってうるさかったんだ」


承太郎も黒の浴衣を着ていた
当然そんな彼を女性はほっとくはずもなく二人を取り囲んできた


「お一人ですか〜?」
「よかったら一緒に遊びません〜?」


承太郎は舌打ちをした。なまえはキョロキョロと周りを見た、そして一軒の店が目に入り
承太郎の手が緩んだ隙に抜け出した


「ねぇいいでしょ〜?」
「やかましい!うっとおしいぞ!………なまえ?」


握っていたはずの手がそこにはなかった




綿菓子の店の前になまえはいた
ちょうど親子が綿菓子を買っており嬉しそうに笑う子供は親にお礼を言っていた


「いいなぁ……」


あの雲みたいなものはどんな味がするのだろう?
そんな事を考えていると数人の男が現れた


「お嬢ちゃん一人?」
「綿菓子買ってあげようか?」


嫌な予感がする
そう感じたなまえは首を横に振りその場から去ろうとした


「待ってよお嬢ちゃん〜」
「いや!!」


なまえは掴んできた男の腕を噛み、人の少ない森のほうへと逃げる


「クソッ!」
「待ちやがれっ!」


男達も後を追った





「なまえのやつ…どこに行きやがった」


承太郎はなまえを探していた、しかし人が多いのでなかなか見つけることが出来ない


「そろそろ花火が始まるっていうのによ……!」


そんな事を呟いた後、神社へ続く入り口のところで見覚えのある履物を見つけた


「これは…なまえの…?」


嫌な予感がした承太郎は履物を拾い、神社の方へと向かった






「ぅぇっ…ひっく…」


なまえは裸足で逃げ回った後神社の階段の所で傷ついた足の痛みと恐怖で泣いていた


「じょう、た、ろ……ふぅ…」
「み〜つけた」


男の声になまえがバッと顔をあげる
逃げ出そうとしたがもう遅かった


「散々手間取らせやがって…悪い子だね〜」
「やだやだ!じょうたろっ!!」
「おい!口ふさげ!」


口を慌ててふさぐ男達
だがなまえの声はしっかりと届いていた


「おいてめぇら」
「!」


男達が振り向くと恐ろしい顔をした承太郎が立っていた


「さっさとそいつを降ろして失せろ」
「な、なんだよてめぇ!こいつは俺たちの子供なんだよ!」
「てめぇらみたいな親に育てられた覚えはねぇよ」


承太郎は腕をバキボキ、と音を立てて鳴らす


「素直に置いて行けばよかったのになぁ」


男達は承太郎に散々殴られると泣き叫びながら逃げて行った


「大丈夫か?なまえ、怪我してねぇか?」
「じょうたろ…うぇっ」


承太郎は傷だらけのなまえの足を見て、抱き上げた


「足手当てしねぇとな……帰るぞ」
「や、はなびとわたがし」
「綿菓子は買ってやる。でも花火は諦めろ、お前がいなくなってる間に終わっちまった…」


そういえば逃げている最中に音が聞こえていたが、森の中だったため空が見えなかった


「はなび……ふぇ」
「………」


泣き出したなまえを見て承太郎はふと、案を思いついた


「なまえ…ここほど大きなものじゃねぇが家でも花火はできる」
「?」




―――――……


「じょうたろ!はやく」
「待て、しっかり持ってろよ」


承太郎はライターでなまえが持っている花火に火をつけた


「うわぁーきれいきれい!」


買ってもらった綿菓子を食べながらなまえは花火を楽しむ


「じょうたろ、こんどはこれつけて!」
「……線香花火か、いいな」


なまえは自分の分と承太郎の分を渡し、火をつけてもらう


「これなんかほかのとちがう……」
「あぁ、でもこんなのもいいだろ?」
「うん!」


なまえが笑顔で返事する、それと同時に承太郎の花火が落ちる


「なまえ…来年はちゃんと花火を見ような」
「うん!」



080821

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