第4話 I'm sorry for lying


一軒の家のインターホンが鳴る
クッキーを焼いていたジョシュアがオーブンから離れて急いで玄関に向かった
扉を開けた先にキャリーバックを持ったナナが現れて控えめにただいま、と言うとジョシュアは嬉しそうに顔を明るくさせて彼女を抱きしめた

「ナナ!どうしたの一体!」
「……ダンテさんがしばらく仕事で帰らないのでその間こっちで過ごそうかと思って…」
「そうなの、さぁ中に入って!今ちょうどクッキー焼いてる所だから!」

嬉しそうに中に入るジョシュアの背中を複雑そうに見つめながらナナも家の中へと入っていく


* * *

客が入ってきたベルの音が鳴りロクサーヌが顔を上げて見ればダンテが入ってきた
彼はカウンターの椅子に座るとストロベリーサンデーと、一言告げた
返事をすると奥からあらかじめ作っておいたサンデーを冷蔵庫から出してダンテの目の前に置いた

「ナナがいないから退屈だろ?」
「あぁ全くだ、家に帰ってもつまらねぇからな。アイツがいない生活がこんなにも楽しくないなんてな」

不機嫌そうにダンテは生クリームがたっぷりついた苺を口に運ぶ
相当ナナに依存しているなとロクサーヌは苦笑した
こんな事になるぐらいならナナの言葉を振り切って自分も着いて行けばよかった
すべて食べ終えてスプーンを置いたとき、ふとダンテが割れた窓ガラスに気がついた

「おい、どうしたんだあの窓」
「あぁ…昨日悪戯されたみたいで大きい石を投げられたんだよ…近くにナナがいたんだけど大した怪我はしてなかったから良かったけど」
「……悪戯で済むレベルじゃねぇな」

立ち上がってダンテは割れた窓ガラスに近づいて考える

「今までもこういう事はあったのか?」
「いや…ないよ、今回が初めて」
「……最近ナナの様子、変じゃなかったか?」

変な様子はあっただろうか、とロクサーヌは考える
そういえばと彼女は思い出したのか口を開いた

「一度だけナナ宛てに手紙が来た事があるな」
「手紙?」
「うん…けど差出人が書かれてなかったけど…」
「……そうか、ありがとよ」

声をかけるロクサーヌを無視してダンテはすぐに店を飛び出すと事務所へと戻った

乱暴に扉を開けて2階へと上がるとナナの部屋に入り引き出しをいくつか開ける
すると鍵のかかった箱があることに気がついて簡単に開けてしまうと今までに届いた手紙が入っていた
中を開けて内容を読んでみれば、ナナの事を悪魔だとか出て行けなどの内容が書かれていた
手紙を握り潰すとダンテは事務所を出て行った


* * *

「ダンテさんは元気?」

野菜を切りながらジョシュアがナナに尋ねる
皮をむいていたナナもはい、と答えた

「ダンテさんも一緒だったら良かったのにね」
「……そうですね」
「今度は必ず二人でいらっしゃいね、久々に私も会いたいわ」

二人で来れる日など来るのだろうか?
その日を楽しみに待つジョシュアの姿にナナは胸を痛めた
きっともうダンテと二人で過ごす事などないだろう
あの街には、ダンテのいる事務所には戻れないのだから


夕食を食べ終えて風呂から上がったナナは昔自分が使っていた部屋に戻った
ふと窓から景色を眺めながら想うのはダンテの事だ
仕事から戻っただろうか?ちゃんとご飯は食べているだろうか?
自分がいないからまたピザばかり食べているのかもしれない
結婚してから自分が作る料理は何でも美味しいといって食べてくれていた、ピザの広告も必要ないといって捨てていたのに

「ごめんなさい……ダンテさん…」

窓に背中を向けてナナは涙を流した

「――何を泣いてるんだ?」

突然聞こえた声に驚いて振り返れば先ほど自分が見ていた窓の近くにダンテがいた
驚いて彼に声をかけようとしたのだがすぐにやめた
ダンテの目が明らかに怒っていたからだ
無言で近づいてくるダンテにナナは一歩後ろへと下がるが、そのまま腕を掴まれて引き寄せられた

「……お仕置きだな、ナナ」


I'm sorry for lying
(覚悟はできてるんだろ?)


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