第3話 For your protection


「え…休む?」

コップを拭きながらロクサーヌは少々驚いたように目を見開いていた
ごめんなさい、と謝るナナに慌てて手を振る

「叔母が倒れてしまって…看病しに行こうと思うんです」
「そっか…それなら仕方ないな。店のことは気にせず行って来ていいよ」
「はい…ありがとうございます」
「ダンテも一緒なんだろ?」

ダンテと名前が出てきた事に心臓がドキリと鳴った
旦那も一緒に付き添うのは珍しい事でもない、だがナナは嘘をついているのだ
首を横に振ればロクサーヌは驚いた顔をする

「ダンテついていかないのか?」
「はい…一緒に来てくれるとは言ってくれたんですけどダンテさんにもお仕事がありますし…」
「そんなにしょっちゅう仕事は来ないんだろ?連れて行けばいいじゃん」
「駄目です…悪魔はいつ現れるかわかりませんし……ほんの少しだけなんで……」
「……そっか、わかったよ」

なんとか誤魔化したナナはテーブルを拭いてくると布巾を持ってカウンターから出て行く
なんだかな、と複雑そうな気持ちになるロクサーヌだが彼女も再び次のコップを手に取った時だった

ガシャン!!

窓ガラスが割れる音が聞こえてすぐに顔を上げた
ナナの拭いていたテーブル付近の窓ガラスが割れていたのだ
テーブルの上には大きな石があり、これが原因で割れたのだろう

「ナナ!大丈夫か!?怪我してない?」
「……大丈夫です…ちょっと指先切っちゃったみたいで…」

ナナも驚いたのかショックを受けたような顔をしていた
すぐに割れた窓ガラスから犯人がいないか探したのだが見つからない
ロクサーヌは舌打ちをした

「いたずらか?それにしちゃ性質が悪いな……」

いたずらではないだろう
ナナは犯人の姿を見ていた、昨日事務所に来た内の一人の人間が石を投げてきたのを
彼らの警告だろう
さっさと出て行けという彼らの警告だ


* * *

「それじゃあいってきます」

キャリーバックを片手に持ってダンテに挨拶をする
つまらなさそうな顔をして彼はナナを力強く抱きしめた

「ナナがいなくなるとつまらねぇな」
「ダンテさん…離して下さいっ」
「もう少しだけ」

ダンテはほんの少しだけでもナナと離れるのが嫌だった
向こうは数日の間と思っているのだ
だけどナナは数日で帰ってくるつもりはなかったのだ
それが余計に辛かった
目を固く閉じてダンテの胸板を押した

「向こうに着いたらまた連絡します…」
「あぁ…気をつけてな」

ダンテに背中を向けると唇をきつく噛んでナナは事務所を出て行った
何歩か歩いてからもう一度事務所のほうへと振り返った

(これで良かったんです…)

自分が出て行けばダンテやロクサーヌに迷惑がかかることはない
大切な人たちと離れるのはとても寂しいけれど仕方がない

「ダンテさん……ごめんなさい…っ」

涙を流しながらナナは駅へと向かい街を出て行った


For your protection
(私はどうなっても構いません…あなたを守れるのなら)


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