第2話 A human being more fearful than an evil spirit


「どうぞ……」

赤いソファーに座った男たちに紅茶を差し出す
ふん、と鼻を鳴らしながらカップを乱暴に手に取ると一口飲み始めた
他の人はじろじろと事務所の中を見渡していた
一口紅茶を飲み終えた男が音を立ててカップを置くと口を開いた

「――で?いつ出て行くんだ?」

男の答えにナナは数秒黙っていたがやがて口を開く

「……ごめんなさい、まだ…」
「はぁ!?何チンタラしてんだよ!!」

大声で怒鳴られてごめんなさい、と再度彼女は謝った
ナナの答えを聞いて次々に口を開く

「あんたが街を壊してくれたせいで迷惑してんだよっ!!」
「そうよ…私の息子なんか怪我をしたんだからっ…!」

女は可哀相に、と小さく呟いて涙を流した
その姿を見てナナは唇を噛んだ
そう…彼らはこの街に住む人々だ
数ヶ月前…ダンテの中に眠っていた黒ダンテが現れナナを利用して街を崩壊させた
そのせいで家を失った人や大切な人が怪我をした人々がいたのだ
当然悪魔狩りを生業としているダンテの所へと人々はやって来て誰が原因なのかを尋ねてきたのだがダンテは当然悪魔の仕業と答えた
だがどこから情報が漏れたのか……ナナが街を崩壊させたという情報が流れたのだ
それを聞いた彼らは数週間前からこうしてナナの所へとやってきてそれは真実かどうか尋ねに来た
嘘をつけなかったナナは認めざるを得なかった

「なぁ…また暴れられたら困るんだ……そうなる前に出て行ってくれ」
「……私がやった事は謝って済む事じゃないのはわかってます。だけどもうこんな悲しい事は二度と起きません」
「そんな保証がどこにあるんだ!?」
「それは……」
「なぁ……あんた本当に人間か?」

ほかの男がポツリと呟いた
どういう意味なのかとナナは彼を見つめた

「あんたの旦那だって悪魔退治の仕事してるんだろ?半分悪魔の血が流れてるって聞いたぜ……あんただってそうなんじゃないのか?いや……人の皮を被った悪魔なんじゃないのか?」
「っ…違いますっ!!私は悪魔じゃないですっ!!!」
「どうだか…大体悪魔の血が半分流れてる男と結婚する時点でどうかと思うぜ」
「そうだな…あの男だって気味悪いぜ」
「やめてくださいっ!!!!!」

大きな声を上げたナナに男たちは黙った

「私のことは……どう言ってくれてもいいです……でも…ダンテさんの事は悪く言わないでください…っ…」

ダンテには悪魔の血が半分流れている事は確かだ
だけど彼は誰よりも優しい、人を思いやる心を持った誰よりも人間らしい人
悪魔の血が流れているから恐ろしいなどと簡単に言わないで欲しかった
人間でも悪魔より恐ろしい人間などこの世にたくさんいるというのに

「……まぁ本当なら二人で出て行って欲しいが、あんたの旦那が悪魔退治をしてくれて助かってる部分は正直ある。……だがアンタは別だ、とっとと出て行ってくれよ」
「……わかりました。では一つ約束してください、ダンテさんの事は悪く言わないでください」

男たちはふん、とつまらなさそうに事務所を出て行った
出て行った男たちを見送ってナナは急いでカップを片付けた
カップを洗い終えると2階へと上がりベッドの上に倒れこむとシーツを被って涙を流した

自分が出て行けばいい
そうすればダンテにも迷惑かけない


「ただいまナナ」

その日の夜仕事を片付けたダンテが帰ってきた
ナナの姿を見つけると彼はすぐに駆け寄って彼女を抱きしめて頭の天辺にキスを落とす
そのキスを受けながらナナは複雑そうに瞳を伏せた

「ご飯にします?」
「あぁ……ん?なんだこの鞄」

足元に置いてあったキャリーケースに気がついてダンテは周りを見る
服などが散らかっておりまるで旅行にでも行くかのような感じだった

「どこに行くんだ?」
「……えっと…叔母さんが倒れたらしくて、私ちょっとの間看病しに行きたいんですけど」
「倒れた?…だったら俺も行く」
「え…いいですよ!私一人で行ってきます」
「……ナナを大事に育ててくれた人だろ?俺ももうその人の家族だ」

一緒に行ってくれるというダンテの優しい気遣いにナナは胸が痛んだ
叔母が倒れたなんて本当は嘘だ
これが本当だったらとても嬉しかった

「駄目です…ダンテさんはお仕事があります。ほんの数日間だけですから……」
「………わかった」

再び荷造りを始めたナナの様子を見ながらダンテは口を開いた

「……叔母が倒れたってのは本当なんだな?」
「!……はい」
「……そうか」

心を見透かされたような気がして心臓が跳ねたがなんとか誤魔化す事ができてナナはホッとしていた


A human being more fearful than an evil spirit
(あなたを守るための嘘です…ごめんなさいダンテさん)


131020


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