第23話 Her happiness should not remind


「ナナ、お願いだから食べて」

サラダの乗った皿を叔母は差し出すがナナは首を横に振る
彼女はフォークをテーブルの上に置くと「ごちそうさまです…」と言って椅子を降りると部屋へと戻っていく
その背中を見つめてナナの叔父と叔母はため息をついた

「なかなか…心を開いてくれないわね」
「姉さん達を失ったショックが大きいんだろう」
「それもあるだろうけど……」

他に原因があるのか?と叔父――デイヴが聞く
それに叔母――ジョシュアがえぇと頷いた

「ほら…ダンテという男の人としばらく一緒に暮らしてたでしょ?彼の事がすごく気に入ってたみたいで寂しいのよ」
「ダンテ…あぁ彼か、ふむ……」

デイヴはダンテと会った日の事を思い出す
彼から連絡があってナナが自分の元にいると言われ迎えに行ったときに出会った
若い男だった、というのが印象的だった
そして彼からすべての事情を聞いた。ナナの父親の先祖が昔スパーダに手を貸した族でその血を引き継ぐナナも命を狙われるかもしれないという事を
彼女を引き取ったことで自分達も命を狙われるかもしれない、だがデイヴの姉が残した大切な宝物だ。自分も命を懸けて守ることを誓った

「ダンテに連絡を取ってみましょうか?」
「いや…やめよう。それに…彼の事だって気になる、一体何者なのか」



与えられた部屋の窓際に座りナナは空を見つめた
ダンテの事務所から離れて数日経つが心にぽっかりと穴が空いたようだった
彼との約束の為我慢して彼の元から離れたがやはり耐えられなかった

「ダンテさん……」

赤い指輪を取り出してぎゅうと握り締める
指輪の赤い色がダンテのコートの色を思い出させて彼に会いたい気持ちが更に深まる
そう思えば彼女はすぐに行動を開始した
階段をそっと降りてデイヴ達が気づいていない間にリビングを通り抜けて玄関の扉をそっと開けた
久しぶりに出た外にまず空気をたくさん吸い込んでから走り出した
ダンテが住んでいる町までは電車で2時間ほどだ、住所もしっかりと覚えていた
後はそこに行くだけ、彼に会うだけ



* * *

電車に乗って数時間後
街に戻ってきた、この辺りは覚えている。ダンテと買出しに行ったときに通ったことのある道だ
事務所に向かって走り出す。だがその途中で悪魔ではなく数人の男に絡まれた

「何処行くのお嬢ちゃん?この辺りは危険だぜ?」
「そうそう俺らみたいなのに出くわしたらな」

数人の男たちはナナを見て舌なめずりすると彼女を抱き上げる
だがナナは男の腕を噛んで抜け出すとすぐに逃げ出す

「待ちやがれっ!!!!」

腕を噛まれた男は大声で怒鳴って追いかけてくる
泣きながらナナは逃げ出し廃墟となった建物の中へと逃げる
階段を上って上って…上を目指して闇雲に走っていく、男たちも諦めずに後を追いかけてくる。外へと出る扉を開けてナナは足を止めた
そこにはもう逃げ場はなかった、隣に立っている建物との距離は5メートルもあり彼女が飛んで隣のビルに行くなどというのは無理だった
後ろを振り返れば息を切らした男たちが追い詰めたことに気がついてニヤニヤ笑う

「捕まえたぜお嬢ちゃん…たっぷり可愛がってやるよ」
「いや…「ぎゃあああああぁぁっっっ!!!!」

突然一人の男が悲鳴を上げる
みんながそちらを見て目を見開いた、悪魔の鎌によって腹部を貫かれ持ち上げられている男がいたのだ

「あ、悪魔だっっ!!!!」

男が叫ぶ、そして次々と男たちが殺されていくのをナナは呆然と見ていた
すべてを終えた悪魔が次に目をつけたのは彼女だった
一歩一歩近づいてくる悪魔にナナも後ろへと後ずさる

「あっ……!きゃあああああぁぁっっ…!!!」

だが足を踏み外してそのまま下へと落ちてしまった



――たくっ、なんでここにいるんだよ

「……だれ…?」

――俺と約束しただろ、大きくなったらまた住めるんだから今は我慢しろよ

「……」

――指輪、ちゃんと持っとけよ

「……はい」



* * *

機械の音が聞こえる
呼吸器をつけたナナはゆっくりと瞼をあげた
彼女の目に映ったのは心配そうに自分を見下ろしていたデイヴとジョシュアだった
ジョシュアはナナが目を覚ましたことに気がつくと彼女を抱きしめた
デイヴもホッとすると医者を呼んでくるよう看護師に頼んだ
呼吸器を外してやり声をかける

「よかったわナナ…!3日も目を覚まさなかったのよ!」
「叔母さん……」
「建物から落ちたんだけど下にゴミ袋があったからそれがクッションになって助かったのよ」
「建物……落ちた……?」

聞かされてもナナはピンと来ない様子だった
デイヴとジョシュアは思わず顔を見合わせた

「3日前の事覚えてる?」
「えっと…ご飯を食べなくて…外に出たのは覚えてます。その…建物から落ちたことは覚えてません……」
「……まぁいいさ、ゆっくり休みなさい」

デイヴはナナの頭を優しく撫でた
撫でられた彼女はそのまま眠りに落ちそうになったのだが再び口を開いた

「叔父さん」
「ん?」
「…私、なんで外に出たんですか?どうして建物から落ちたんですか?」
「……大きくなったら話してあげるよ」

――大きくなったら

「ナナ?」
「…なんでもないです、おやすみなさい」

叔父と叔母はそれを聞いて病室から出て行く
寝ようと決めたナナは自分が何か握っていることに気がついた
そう赤い指輪だった
どうして自分はこれを持っているのだろうか?叔母さんの物だろうか?
だがそれを離すのはどうしても嫌でナナは赤い指輪を見て微笑むとそのまま握り締めて目を閉じた


Her happiness should not remind
(誰かと約束を交わしたんだけど…あれは一体誰なんでしょうか?)


過去編終わり
120830


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