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楽しい思い出を作ろう

クリスのこの一言はさっそく行動を起こす事になった
クレアが帰ってから数分後、彼はナナに着替えるように促したのだが昨日の服は皺くちゃだった。とりあえず一度彼女を家に送り着替えをするように言った

「着替えてきたらまた車に戻ってきてくれ、これから出かけよう」
「え…こ、これから?仕事は大丈夫なの?」
「今日は休みなんだ……あ、ナナの方は店大丈夫じゃないか…」

その言葉にナナは首を横に振った
今日は特に約束しているお客さんもおらず花の手入れをして一日が終わるだろう
一日ぐらい休んでも罰は当たらないだろう
デートできるということにクリスは嬉しそうな顔をした、ナナもそれに微笑んで待っていてと言うと急いで着替えに走った
よく考えればクリスとデートをするのは初めてだった

「……変に着飾っても仕方ないよね?………ちょ、ちょっと可愛いワンピースでいいよね!!」

クローゼットの奥から一着のワンピースを取り出す、そして着替えるとそのままクリスの元へ向かおうとしたのだがふと鏡に映った自分を見て睨めっこする
髪の毛もくちゃくちゃで化粧も直したい、せっかくのデートだからもっと綺麗にしたいと思うのは女の本望だ

「……クリス待たせてるから、ほんのちょっとだけ巻いて……」



* * *

6本目の煙草を吸い終えたクリスは車に備え付けてある灰皿に押し付けた
店の奥へと彼女が消えてから数十分は経っている、何かあったのだろうか?
車から出てクリスが店の中へと入ろうとしたときにちょうどナナが出てきた

「お、おまたせクリス…」
「!」

一瞬天使が現れたのかとクリスは思った
くしゃくしゃだった髪が綺麗に巻かれ、落ちていた化粧も綺麗に直されている
うっすらとピンク色の唇は彼を誘惑しているようで目が離せなかった
呆然と立っている彼に首を傾げると彼の顔の前で手を振る

「どうしたの?」
「え、あ……その…綺麗だなって思って」

綺麗だと彼は言った後照れくさそうに微笑んだ、それにつられてナナも同じように照れてしまう
クリスはそのまま彼女の両頬を優しく包んで唇にキスをする

「可愛いよ」
「っ!」

ありがとう、と小さく呟く彼女にクリスは微笑むと助手席の扉を開けて乗せてやる


まずは食事をしようとレストランに立ち寄るがちょうど昼時ということもあってか待ち時間1時間越えは当たり前だった
数件回ってもどこも似たようなものだった
どうしようかと考え込んでいたときにナナが口を開いた

「ねぇクリス…そこのパン屋さんでサンドイッチ買って外で食べるのはどう?天気もいいし」
「え…俺は構わないけど、ナナはそれでいいのか?」
「うん」

頷いて先にパン屋へと歩き出していくナナの後をクリスは追いかける
適当に買ってコーヒーも買うと近くの公園へと移動した
中には二人と同じように食べ物を買って食事を楽しんでいる人たちもいた
場所を見つけてベンチに座ると先程買ったサンドイッチを広げる、おいしい匂いが二人の鼻をくすぐった
一つ手にとってクリスに手渡すとナナも手に取り二人で同時に口に含んだ
カリカリに焼かれたパンとさっぱりとした野菜の味が口の中に広がった

「うーん!上手いなコレ!!」
「おいしいでしょ?あそこ有名な店だったんだよね」
「…レストランじゃなくてもこういう形もアリだな」
「天気もいいしね…こういうのも悪くないでしょ?」

あぁ、と微笑み返すクリスの口元にナナが手をやる
がぶりと食べたのだろう。彼の口の周りにマヨネーズがついていたので彼女が手でそれを拭ってやり自らの口に含んだ

「クリスったら子供みたいね」
「すまない…」
「ふふっ」

子供みたいだと言われて謝るクリスにナナは微笑んでサンドイッチを再び口に含む
すると彼女の口元にも自分と同じような事になっていたのでクリスは顔を近づけて舌でそれを舐めてやる

「クリス!」
「大丈夫、誰も見てないさ」
「そういう問題じゃ……もうっ!」

ニヤニヤ笑うクリスに恥ずかしそうに彼女は彼の肩を叩いた


* * *

食事を終えた二人は街中を歩いていた
すると道端に商品を広げている店に目が止まりナナは近づく、他所を向いていたクリスはそれに気がつくと同じように後を追いかけた
可愛らしいアクセサリーが並べられている、ナナは目を輝かせながら色々と見ていた

「この指輪…可愛い」
「これくれないか」

うっとりとしながら眺めていたナナの横でクリスが店の主人に声をかけた
主人は頷いて値段を告げるとクリスは金を渡した
あっという間の流れに置いていかれたナナはクリスに肩を抱かれて店を離れる

「クリスいいの?」
「あぁ、気に入ったんだろ?」
「で、でも……」

どうしようとモジモジしている彼女から指輪を取るとクリスはそれを右指の薬指にはめた
驚いたように見つめる彼女にクリスは微笑んだ
そしてナナの左手を手に取る

「ここは…いつか俺が」
「…っ!本気なのクリス…?」
「あぁ、だから今はここで頼む」

自分との将来を考えてくれているクリスの姿にナナは嬉しくなった
ありがとう、と言って彼女は彼に力強く抱きついた



明日も次の日もずっと一緒にいられる
そう、思っていたのだ

1998年の夏……悲劇が始まった


130111


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