もう一歩


ピアーズが奇跡の復活を遂げてから数週間後……
彼の容態は順調に回復していた、ただやはり左腕はないのが何かと彼の生活を不便にさせた
しかし足はある…頑張れば再び走る事ができるようになるのだ

「さぁピアーズ、今日も頑張るわよ」

リハビリテーション室についたピアーズとナナ
車椅子から立ち上がる彼を支えながら棒に捕まらせる、彼が倒れないようにナナがいつでも助けられるよう前に回った

「なぁナナ、その役目はやはり医者に任せた方がいいんじゃないか?」
「嫌よ、私が絶対にやるって決めたもの」
「俺の体重を君が支えられるとは思えないんだ」
「はい、ずべこべ言わずに歩いて」

絶対に聞かない様子の彼女にピアーズはため息をつきながらも一歩歩き出す、彼が歩くと同時にナナも後ろへと一歩下がった
これでも随分と良くなったほうだ、最初の頃など何度も転んでいた。回復していく彼の姿を一瞬も見逃したくない

「あっ!!」

ピアーズが少しよろけてナナの唇へとキスをした

「すまない…」
「いいの…」

そのままの距離でお互い見つめあう、そしてまた唇を重ねる
何も答えなかった彼が今はこうして自分を求めてくれている
ピアーズはハッとなって唇を離すと、顔を横に逸らした

「ほら…こうなるから集中してできないんだ」
「いいじゃないその方が」

ナナは後ろに数歩下がって両手を大きく広げた

「今度は一人でここまで来てピアーズ、上手く来れたらまたキスしてあげるわ」
「…何だよ、それ」
「ご褒美あった方が人は頑張れるものでしょー?それとも私がご褒美じゃ嫌?」

更に数歩下がる、そこが一応終着地点だ

「ここまで来たら力強く抱きしめて…もっと私を求めてピアーズ」

寂しそうに微笑むナナの姿にピアーズは一歩踏み出す
最初の所に来ると彼は彼女の後頭部に手を回して唇を力いっぱい押し付けた
今まで寂しい思いをさせて来たのだ、彼女がどれだけ自分を求めても答えてやる事ができなかった
今は答えてやれる事ができる、彼女の為にも答えてやらなければ

「ん……最後よ、ピアーズ」

唇を離してナナは大きく両手を広げる
ピアーズは再び一歩一歩歩き出し彼女の元までたどり着くと力強く抱きしめて再び唇を押し付けた

「んんっ…」

本当はナナが痛い、と言うほど両手で力強く抱きしめてやりたい
だけど今の自分には片手でしか抱きしめてやる事ができない
自分を最後まで捨てなかった彼女に、何ができるのか

「ありがとう…ナナ、ずっと俺の側にいてくれて」


ピアーズが意識を取り戻してからその後のリハビリ生活を描いたある日常の一コマの話です。何もしゃべらなかった彼が今はこうしてしゃべって動いている当たり前のような事がヒロインにとってはものすごく幸せで嬉しいんだよって事を書きたかったんです。そして最後まで自分の側にいてくれた彼女にピアーズは感謝してるといいです
121228


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