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「なんと最後の3回戦の切符を手に入れたぞークリス・レッドフィールド!!!」

司会者の声に周りの観客も歓声を上げる
これでクリスはまた優勝へと近づく事ができたのだ
彼は観客に手を振ると最後に忘れずにナナへと手を振ったのだ、振られた彼女は先程の笑顔ではなく静かに微笑んで手を振っていた
それに気づいたクリスは不思議そうに彼女を見つめた

「ナナ……?」

彼は小さく彼女の名前を呟くとそのままベンチへと戻っていく
クリスの姿が消えてナナは気まずそうに俯いてしまった
さっきのキスは自分でも驚いているしクリスだって驚いているに違いない、いや普段と違う事に気づかれたかもしれない
だけど言えなかった、ドミニクにキスされたことなんてクリスに知られたくない
手の甲で自分の唇を擦る

「……クリス」



「いよいよ次で最後ね」

ベンチに戻るとジルが嬉しそうに口を開いた
ここで彼が優勝すればS.T.A.R.Sの知名度も上がる
だがクリスはライフルをバリーに手渡すとそのまま座り込んでしまった

「クリス?どうしたの??」
「あ、いや…なんでもない」

クリスはジルにそう答えると自分の唇にそっと手を当てた
先程のナナとのキスが忘れられない、自分からは深く口付けたことはあったのだが彼女からあんなに求められたのは初めてだった
すごく嬉しいのだがどこか引っかかる、それは彼女の切なそうな微笑だった

「お、どうやらドミニクがお前の最後の対戦相手らしいな」

バリーの声にクリスはハッとなって見た
確かに次の対戦相手はドミニクとなっていた、クリスは立ち上がってハンドガンを手に取ると仲間達に肩を叩かれる

「頑張れよ」
「ナナの為にも優勝しなさいよ」
「あぁ」

仲間に見送られてクリスは最後の戦いへと挑む
会場に現れたクリスの姿にナナは心臓がドキリとなった、よりにもよって対戦相手がドミニクだったなんて
二人の距離が近づくたびに心臓の鼓動が大きくなっていく
クリスはナナの方へと振り向いて手を振るのだが彼女は応えなかった
どこかショックを受けたような顔をして祈るように両手を握り締めている

「その様子じゃあ聞かなかったみたいだな?」

ドミニクの言葉にクリスはそちらを見る

「何をだ?」
「べーつに?」

嫌みったらしく言うとドミニクはナナの方を見た
何故彼が彼女の座っている客席の場所がわかったのかクリスは少し眉間に皺を寄せた

「何故ナナの場所を知ってるんだ?」
「さぁな……クリス、この勝負は俺の勝ちだ」

ニヤリ、と彼は笑うとクリスはもう相手にしないと決めて銃に弾を込める
先行はクリスからになった。彼はポジションに着くと銃を構える
全神経を集中させて的に狙いを定めて引き金を引こうとした時だった

「さっきナナとキスしたんだよ」

パンッ!

「おぉーっとクリス選手1発目を外したーっ!!!」

司会者、観客だけでなくナナやジル達も驚いたように見ていた
クリスは一旦銃を構えるのをやめてドミニクの方を向き口を開いた

「今…なんて言ったんだ?」
「廊下でナナに熱いキスをしてやったって言ったんだよ」
「お前…っ…!!」

彼はドミニクに詰め寄って胸倉を掴んだ
その姿に周りの人たちは騒然となった、ドミニクはニヤニヤ笑いながらクリスに小声で言う

「殴るなら殴れよ…何なら頭をブチ抜いてもいいぜ?けどそうなったらお前は終わりだ」
「ナナを泣かせるような奴は許さない…っ」

クリスは拳を握り締めた

「クリスっ!!!」

突然聞こえた声にそちらを振り向けばナナがやめて、と首を横に振っていた
彼女の顔を見て落ち着きを取り戻すことができた
こんな事を望んでいない、殴って気がすむのは自分だけだった
クリスはドミニクから手を離すとポジションへと戻る、離されたドミニクはふんっ、と鼻で笑った

「どうしたんだよ?彼女の仇も取れない腰抜けめっ!!!」
「……ナナと約束した、何があっても優勝すると」

冷静さを取り戻したクリスは近寄ってきた司会者に謝ると再び銃を構える
先程のようなミスは無く、すべて真ん中に命中し一発も外さなかった
ドミニクはその姿に背筋がゾクリとなった
周りの観客から歓声が上がりナナも嬉しそうに微笑んだ
お前の番だぞ、とクリスが勝ち誇ったような笑みで言った
ドミニクは唇を噛んでポジションに着いた、しかし集中できないのかほとんど的から外して勝負はあっけなく終わった

「優勝はクリス・レッドフィールド!!!!!」

射撃大会は見事にクリスが優勝した
司会者がやって来て一言求められるとクリスは口を開いた

「今回俺には勝利の女神がついてたんだ……それが彼女、ナナだ」

クリスが指をさすとみんなが一斉にそちらを見た
会場へ降りてくるように言われるとナナは照れくさそうにしながらクリスの元へと行く
クリスは優勝したトロフィーを彼女に手渡すとそのまま抱き上げた、嬉しそうに微笑む二人に周りから拍手が巻き起こった


* * *

「っ…ちくしょー」

地下駐車場をぶつぶつ文句を言いながら歩くドミニク
鞄から車のキーを取り出そうとしたとき右頬を誰かに殴られて彼はそのまま地面に倒れこんだ
突然殴られて驚いたように見上げるとクリスがいた

「ク、クリス!?」
「…やっぱり俺の気が済まないからな、仕返しだドミニク。二度とナナには手を出すなよ」
「ひっ…!?」

もう一度殴る素振を見せればドミニクは怯えて両手で顔を隠した
哀れなその男の姿にクリスは鼻で笑うと自分の車で待たせてあるナナの元へ向かおうとその場を去った
殴られて口から血が出たドミニクは怒りを露にして拳銃を取り出し、姿が消えた彼の後を追おうとした

「そんな物騒なものをどうするつもりだ?」
「!?な、なんだ…ウェスカーか」

柱の影から現れた人物の姿を見てドミニクはホッとした

「あんたいつから見てたんだ?」
「殴られた所からだ」
「そうだ、あんたクリスの上司だよな!あいつクビにしろよっ!!俺の事殴ったんだぜ」
「クビか…それは困る。かといってお前がクリスを追い込むのも困る」

ウェスカーは懐から拳銃を取り出してドミニクの額に向けて発砲した
撃たれたドミニクは目を見開いたままその場に倒れこんだ
その姿を見てウェスカーは口の端を上げて銃をしまい込んだ

「あいつらはこれからの計画に必要なのでな…一人でも欠けられては困る。そう遠くない計画だ……その時に死ぬだろう、それまで待っておけばいい地獄でな」

もう聞こえていないドミニクに言うとウェスカーは妖しく微笑んでいた


121205


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