09


ナナの問いかけにクリスは混乱していた
自分は彼女に何もなければドリーの所に行っていただろうか?
仕事を優先する自分だがもし誤解が解けていなかったらヤケクソになってドリーの所へ行って肉体関係になっていたかもしれない
クリスが答えようとしたときに運転席側の窓が叩かれたので開ければ警察官がいた

「すみませーん…ってあ、クリスか」
「あぁ夜勤か?」
「そうだよ、ここ駐車禁止なんだ。どかしてくれるか?」
「あぁ…すまない」

窓を閉めるとクリスは車のエンジンをかけて走り出す
ナナを店に送るまで車内は無言だった



「着いたよ」
「…送ってくれてありがとう」
「…行っていたかもしれない」

扉を開けようとしていたナナの手がピクリと反応した
そのまま振り返ればクリスは苦笑していた

「…誤解したままだったら、俺はヤケクソになってドリーの所に行っていたと思う」
「誤解…?」
「…その、君の兄さんが…君の恋人だと勘違いしていたままだったら…」
「クリス……」

声をかけてきたナナの手をクリスは優しく握った
握られた彼女は驚いたようにクリスを見つめた

「君が好きだ、ナナ」
「…っ」
「君が好きだから誤解してヤキモチ妬いてたんだ…かっこ悪いよな、俺」

ハハッ、と笑ってクリスは彼女の手を離した
離された自分の手をナナは黙って見つめていた

「すまない、驚かせて…なんだったら忘れてく「私も…クリスがドリーの所に行ってたらヤケクソになってドミニクと過ごしてた」
「え……」
「……私も…好きよ。クリスの事…」

クリスは今この状況に混乱していた
ずっと想っていた相手に自分も好きだと想いを告げられた
ナナの顔を見れば恥ずかしそうに頬を赤く染めて膝の上に置いてある彼女の両手が力強く握られている

「ほ、本当か…!?」

問いかけられてナナはコクリと頷いた
途端にクリスは笑顔になって彼女を抱きしめた

「きゃっ…クリス!?」
「すまない…嬉しかったんだ。――…一生大切にする、離さない」
「っ…うん」

この人なら自分を大切にしてくれる
ナナはそう信じてクリスを抱きしめ返す、そのまま顎を掴まれて二人は唇を重ねあった


* * *


「おいクリス!」
「ケビン…」

次の日、喫煙室で煙草を吸っていたクリスの元にケビンが大きく足音を立ててやって来た

「昨日連れて帰ったナナは無事に送り届けた"だけ"なんだろうな!?」
「どういうことだ…?」
「ドミニクの奴はあの子の事気に入ってたんだよ!お前は送り届けただけなんだろ!?何もなかったんだよな!?」

ケビンに尋ねられてクリスは煙を吐き出すと、灰皿に煙草を押し付けた
そして立ち上がって出て行こうとするのでケビンが慌てて後を追いかける

「お、おい?」
「ドミニクはどこにいるんだ?」
「え…オフィスにいるけど…」
「俺からちゃんと話すよ、悪いなナナはもう俺の恋人なんだ」

そう言って笑うクリスにケビンは呆気にとられたような顔をしていた


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