07 おかえりなさい
「あれ…?」
ふと目を開けてみると海が見えていた
ここはピアーズとの思い出の海だ、自分は病院にいたはずなのにどうしてこんな所にいるのだろうか?
「ナナ」
ふと聞き覚えのある懐かしい声色にそちらを向けばピアーズが片手を上げて微笑んでいた
「っ…ピアーズ!!」
ナナは走って彼に抱きついた、そうすればピアーズも彼女を力強く抱きしめる
「戻った…のね?」
「戻った?何の話だよ、俺は前からこうだろ?」
「…そう、そうよね…うん、そうね」
一人納得したように呟いて彼女は再びピアーズを力強く抱きしめる
この感触を味わうのも随分と久しぶりだ
ピアーズはナナの身体を離すと、手を握って一緒に海に向かって走り出した
そのまま飛び込んで二人で水を掛け合って遊んだ
これも随分と久しぶりの事だった、とても懐かしくて幸せで…この時間が永遠に続けばいいと思った
「なぁナナ」
「ん?」
「どうして泣いてるんだ?」
散々海の中で遊んだ後砂浜に座っていたときだった
ピアーズに言われてナナが自分の頬に触れれば涙が零れている事に気がついた
慌てる彼女の涙をピアーズが優しく指で拭う
「何か我慢してるんだろ?吐き出せよ」
「でも……」
「いいから」
促されてナナは悩んでいたがやがてゆっくりと口を開いた
「…今の時間はとっても楽しかった、ピアーズもちゃんと答えてくれるし微笑んでくれるし…抱きしめてもくれる。全部夢だから……私現実のピアーズがいつかこうしてくれることを望んでる…医者に回復の見込みがないって言われても……夢の中みたいにまたピアーズが微笑んでくれて好きだって言ってくれる事を望んでる…私、ピアーズに帰ってきて欲しい…っ」
そこまで言って泣き出したナナをピアーズは優しく抱きしめた
「大丈夫……俺は帰ってくるよ」
「ホントに?本当にピアーズ…?」
「ナナが俺の為に一生懸命やってくれてること…俺は全部知ってるから……待っててくれ」
頭が優しく撫でられる感触が伝わる
これは誰の手なのだろうか?
ナナはゆっくりと瞼を開けた
ベッドから身体を起こしたピアーズが優しく微笑んで左手で自分の頭を撫でている
これは……
「おはよう」
まだ自分は夢の続きを見ているのだろうか?
だけど彼の右腕はない、空いた左手で自分の頭を撫でてくれている
「ナナ…?」
夢ではない奇跡が起こったのだ
ピアーズは帰ってきてくれた、自分の所へ
ナナは身体を起こしてピアーズに力強く抱きついた
「なんでまた今日もあいつに会いに行くんだよ」
「まぁそう言うな…案外ピアーズも喜んでるかもしれんぞ」
クリスに無理矢理付き合わされてジェイクは渋々と言った様子で病院の廊下を歩く
ピアーズの病室に着いたとき少し隙間が空いていたのでクリスは覗き込んだ
何度もピアーズの名前を呼んで大声で泣きじゃくるナナの姿と慰めるピアーズの姿が見えた、ピアーズは昨日まで意識がなかった状態ではなかった。ちゃんと話しかけている
奇跡が起こったのだ、とクリスも思った
「おいどうしたんだよ」
「……出直すぞ」
「え?あ、おい待てよ!」
その場を離れるクリスの背中をジェイクは慌てて追いかける
よかったな、とクリスは目を細めた
* * *
「BSAA所属おめでとうアンディ!!」
一つの家でパーティが行われていた、アンディと呼ばれた若者はBSAAへの配属が決まった。彼の父も、そして祖父もBSAAに所属していた
アンディも当然その二人の影響を受けてBSAAに憧れ所属が決まった
「頑張りなさいね」
「ありがとう母さん、父さんは?」
「上に行って…あぁ降りて来たわ」
ちょうど話していると父親が2階から降りて来た
「父さん、ピアーズお爺ちゃんとナナお婆ちゃんは?」
「あぁ上にいるよ…まったく父さんたちはホント仲良しなんだから」
「そういえば今日は数十年前に何かあったんでしょ?」
「あぁ…ピアーズが帰ってきた日、らしいよ」
「何なのそれ?俺後でお婆ちゃんに聞いてみよう!」
1階で騒いでいる中2階のベランダにピアーズとナナはいた
いくつもの星が流れ静かな時間が続いている、今隣にいる大好きな人と過ごしているこの時間に目を細めながら皺皺になった手で大きな手を握り締めれば、昔ほどではないが力強く握り返された
"おかえりなさい、ピアーズ"
シュレーディンガーの猫
121105