04 泣くのはやめる
カプセルの中に閉じ込められていたピアーズだが、この日はいつもと違っていた
研究員がボタンを押してピアーズの入っているカプセルの扉を開けたのだった、すぐに近くにいた研究員達に身体を支えられる
一人の男がピアーズに話しかける
「君の実験は終わった……BSAAのクリス・レッドフィールドという男が君を探している。近くの病院に君は移される」
クリスの名前を聞いてピアーズはかすかに反応した
男が指示するとピアーズは車椅子に乗せられてそのまま出て行く
それを見送った若い男がピアーズに話しかけていた男に声をかけた
「いいんですか?どちらにしろ彼は助かる見込みはもうないんでしょう?生き残れたとしても植物状態のままですし……」
「……どうせ死ぬのなら身内に見送られて死ぬ方がいいだろう。こんなところにいるよりは」
男はそう言って手に持っていたピアーズの実験データを見て複雑そうな瞳で見ていた
* * *
ピアーズが死んだと聞いてから数週間経った
ナナは食事も取らず風呂にも入らず、ただ呆然と床に座りながらどこか遠くを眺めていた
彼女の瞳にはもう希望も何もない、死人のような目をしていた
死んでしまおうと何度も思い包丁で手を切ったりしたのだが痛みが襲い、死ぬのが怖くなって何度も涙を流した
「ナナ、いるか?」
玄関から声が聞こえた、クリスの声だった
彼は部屋に入ってきてこちらを見ようともせずに呆然としているナナに気がつくと急いで側に駆け寄る
「しっかりしろ!君に大事な知らせを伝えに来たんだ」
「……知らせ?」
「……ピアーズが生きている」
ピアーズが生きている、その知らせに一気にナナの瞳に輝きが戻った
彼女はがっしりとクリスの鍛えられた腕を掴んだ
「ホント?生きているの…?ピアーズが生きているの!?」
「……病院に案内する、だけど君もそれなりに覚悟をして欲しい。来れるか?」
ナナは頷いた
ピアーズが生きているのなら会いたい、会って今すぐ抱きしめたい
病院に案内されてすぐにピアーズがいる部屋へとやって来た
彼は少し離れた場所にある個室にいた
ナナは車椅子に乗っているピアーズに近づいて声をかけたのだが返事がない、顔を覗きこんでみれば瞳に光がなかった。まるで数日前の自分のようだった
「ピアーズ…」
「…海岸に打ち上げられていたところを研究者達に拾われたらしい。ジェイク・ミューラーの抗体のおかげでウィルスに犯された右腕はなくなったが……意識もないらしい。おそらく一生このままだ」
「そんな…そんな……」
ナナは信じられないと首を横に振りピアーズの顔を見る
彼は相変わらずどこかを見つめたままだ
「もう海にも一緒に行けないの…?私の作ったステーキもおいしいって言って食べてくれないの……?」
「ナナ……」
「うっ…ううぅっ…あぅっ…ふっ!」
ピアーズの膝で泣き出したナナの肩にクリスは優しく手を置いた
その時だった
今まで何も反応を示さなかったピアーズがナナの手に自分の手を重ねたのだ
突然の出来事にナナもクリスも驚いて彼を見るが、相変わらず表情は変わらないままだ
重ねられているピアーズの手を取って握り返した
「ピアーズ…生きようとしてるのね!大丈夫…私、貴方にプロポーズされたあの日から何があっても側にいるって決めたもの……時間はたっぷりあるわ。ずっと一緒よ、ピアーズ…っ!」
ナナは決めた
ピアーズが帰ってくるまで泣かないと、笑顔で彼を迎えるのだと
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