03 最後の会話


プロポーズをされて2週間の月日が流れた
クリスマスは残念ながら任務が入ったため一緒に過ごす事ができなかった
彼の無事を祈りながらナナは毎日式場のパンフレットを眺めては胸をワクワクさせていた
次のページを捲った瞬間携帯の着信音がなった、ディスプレイにピアーズと名前が出て急いで携帯を手に取る

「ピアーズ!仕事終わったの!?」
「……あぁ、連絡が遅れてすまない」
「無事なのね…よかった」

ピアーズの声が聞こえてほっ、と胸を撫で下ろした
危険な仕事についている以上彼といつ永遠の別れになってしまうのかわからない
声が聞けるということは本当に嬉しかった

「ねぇピアーズ、結婚することはもうみんなに伝えた?」

ナナの言葉にピアーズは身体をピクリと反応させた
もちろん電話の向こう側なので彼女が気づく事はない

「すまない……式はもうちょっと待ってくれないか」
「え………どういうこと…?」

思わずナナは身体を固まらせてしまった、もしかして今頃になって彼は自分との結婚に後悔しているのではないかと
何か彼に嫌な事をしたのではないかと色々と記憶を辿る

「誤解しないでくれ、嫌になったとかじゃないんだ………クリス隊長の事は前に話しただろ?」
「クリス……あ、うん…」

ピアーズの上司でもあり、彼はそのクリスが率いるチームに所属していた
彼がこうしてBSAAにいるのもクリスのスカウトがあったからだ。何のために戦っているのか悩んでいた彼をこうして導いてくれたピアーズにとって尊敬する人物でありとても大切な人だ
ナナも何回かあったことがあるがとてもいい人で何かしらオーラがあった

「イドニアの任務で大怪我をして……そのまま病院から抜け出て行方不明になったんだ」
「え……ゆ、行方不明!?」
「…俺はあの人を探したい、BSAAに連れ戻したいし……俺達の結婚式にも絶対に出て欲しいんだ。だから……隊長が見つかるまで待って欲しい」

いつもは自分のわがままばかりを聞いてくれるピアーズがここまで自分に頼み込んだ事など今まであっただろうか?
それほどまでにピアーズはクリスをとても大切に想っている
嫌なんてとても言えなかった

「うん……わかった」
「!…ありがとう」
「けど…無理、しないでね?たまには連絡ちょうだいね?」
「あぁ!…愛してるよナナ」
「ふふっ…私もよ」


これがピアーズとナナの最後の会話だった


一軒のアパートの前にクリスは来ていた、彼は懐から出したワッペンを力強く握り締めて再び足を進める
彼がやってきたのはピアーズの婚約者でもあるナナの家だった
クリスからすべて事情を聞いた彼女はただ黙っていた

「これは…ピアーズが最後に俺に託したものだ……君に持っていて欲しい」

目の前に出された血の跡がついたBSAAのワッペン
ゆっくりと手を伸ばしてじっとそれを見つめる、確か左肩の部分につけていたなと何となく思い出す
何もしゃべらない、黙っているナナにクリスは胸を痛ませながら椅子から立ち上がった

「……何かあったらいつでも頼ってくれ、力になるよ」

それだけ言うとクリスは部屋を出て行った
出て行く扉の音が大きく聞こえた、それを聞いてからナナはふと埃が被った式場のパンフレットを手に取る
ピアーズはこれが似合うだろうな、と蛍光ペンでチェックしてあるページが開いた

――俺と結婚して欲しい。俺がこれから先もずっと君を守る
――愛してるよナナ

自分の中の何かが爆発した
式場のパンフレットを壁に投げつけ、側に置いてあった花瓶も地面に落とした
そしてそのまま蹲りワッペンを握り締めながら大声で泣いた


121030


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