07
後ろから羽交い絞めにされたナナだが必死に暴れて男の腹に肘を当てて抜け出すと地面に落としたナイフを拾って男に向けた
男は両手を上げて声をかけた
「落ち着くんだナナ…僕だトラヴィスだ」
「私にストーカーしてきた男でしょ!?レオンもあんな目に合わせて許さない…っ!」
「……僕がストーカーだって?何を言ってるんだ僕は君の恋人じゃないか!」
恋人だというトラヴィスにナナは目を見開いた
だが騙されない。自分には今記憶が無いし証拠は何も無いのだ
「嘘つかないで!私を記憶喪失にしたのもあなたなんでしょ!!」
「記憶喪失だって…?落ち着くんだ!後ろの写真立てを見るんだ」
ナイフを突きつけたままナナはゆっくりと後ろを振り向いた
そこにいくつか写真が並んでおりトラヴィスと自分が仲良く写っていたのだ
しかも遊園地の写真はレオンの家にあったものとまったく構図が一緒だ、よく見れば写真だけでなく家の家具や配置までもがレオンの家と一緒だったのだ
「どういうことなの……?」
「思い出すんだナナ……君が記憶喪失になる前に遊園地に行ったんだ」
「遊園地……」
「観覧車でプロポーズもした……その後での事だ」
「あ……ぁ…ぁ……」
* * *
観覧車に乗り込んだ二人はしばらく景色を楽しんでいた
ナナは子供のようにはしゃいで海が見える、町が小さく見えると楽しそうに笑っていた
そんな彼女に目を細めて見つめながらトラヴィスはそろそろ屋上につくな、とタイミングを見計らってナナを呼ぶと箱を取り出した
「ナナ、僕と結婚してほしい」
「トラヴィス…!!…えぇ!」
薬指に指輪をしてもらい唇を重ねた
観覧車から降りた二人はトラヴィスがトイレに行っている間、ナナはベンチで待っていた
しばらくしてトラヴィスが戻ってきた後、車に乗り込んで帰ることになった
すでに日は暮れており他の車もほとんど走っていなかった時だ
突然二人の乗る車に他の車がぶつかってきたのだ、この時の衝撃でナナは強く頭を打ち気を失った
痛む身体を押さえながらトラヴィスは彼女に声をかける、その時彼の運転席側の扉が開いて引きずり出された
「な、何をする…ぐふっ!!」
トラヴィスも犯人に容赦なく殴られたのだ
* * *
話を聞いていたナナはすべてを思い出すことができた
そうだ犯人はトラヴィスではない、彼は自分の恋人だ
「じゃ、じゃあ……犯人は誰なの…?」
パンッ
小さな音が聞こえたと同時にトラヴィスはその場に倒れこんだ
そう、彼は拳銃で撃たれたのだ
「やっぱりここに来ていたのか」
「レオン……」
何故か病院にいるはずのレオンがそこに立っていた、しかも銃を構えて
そうレオンがトラヴィスを撃ったのだ
「ど、どうして…」
「どうして?犯人が君を襲っていたから助けたんじゃないか」
「違うわ!トラヴィスは犯人じゃない!!……あなただったのね」
「………思い出したのか」
ふぅ、とため息をつくレオンにナナはナイフを向ける
「俺は君を愛してる、それだけだ。なのに君は俺にちっとも振り向かなかった……残った手段は君を奪うしかないだろ」
「おかしいわそんな考え…私が愛してるのはトラヴィスよ!!」
「何言ってるんだ?君は俺のプロポーズにも返事をくれて…セックスもした中じゃないか」
「やめて…」
「……気持ちよかったな、君の中は」
ニヤリと笑うレオンにナナは吐き気が来てその場でもどしてしまった
こんな男に身体を許してしまったのか、汚されてしまったのか
「君の為に部屋の番号も同じにして家具も揃えてやったんだ」
「……あなたを跳ねた車は?」
「あれは演技だ。君が俺を疑い始めたから俺ではないって事を信じさせる為のな…怪我なんか全然してない」
「そんな…そんな……」
床に崩れ落ちるナナにレオンは笑うと彼女に近づいて耳元で囁いた
「トラヴィスは君を人質にとったので俺が仕方なく撃った…で解決だな」
「そんな事…させないっ!!…あなたがやったの私は見たんだから全部全部話してやるんだからっっ!!!」
「…威勢がいい君も素敵だが、それはいけないな………閉じ込めてしまおうか」
閉じ込める、という言葉にナナは背中が震えた
すぐに立ち上がって隣の部屋に逃げたのだが当然逃げ道などない
レオンが笑いながらこちらに手を伸ばしてくる
「いや……お願い……やめて……いやああああああぁぁああっっっ!!!!!!」
* * *
トラヴィスはナナを人質に取った為、やむを得なく発砲
正当防衛とみなされレオンに罪が下る事はなかった
むしろ人々から彼女を守ったという正義ある行動に感動していた
事件は無事に解決した……
「おはようナナ」
優しく微笑んでレオンは檻の中に閉じ込められたナナに声をかける
彼女は泣きながら彼に口を開いた
「お願い…ここから出して…っ」
「そこがナナの部屋だから駄目だ」
「誰にも事件の事は言わないから…っ…こんな狭い所……っ…!!」
泣き出すナナにレオンはうっとおしそうな顔をすると檻を移動させて真っ暗な物置へと連れてきた
「え……?」
「どうして明るい部屋にいれるだけでも満足できないんだ?悪い子だな、今日は俺が帰ってくるまでこの物置で待ってるんだな」
「そんな…いや…っ」
否定する彼女を無視してレオンは物置の扉を閉めた
泣き叫んでいるようだがあいにく誰の耳にも届かない
レオンは口の端を上げて再び物置部屋を見た
「いってくるよナナ……愛してる」
ロキの絶望
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