04
「恋人が記憶喪失…となると辛いですね」
先ほどレオンたちを訪ねていた刑事たちが車の中で話をしていた
部下の言葉に上司も黙って頷いてハンドルを握っていた
ナナの記憶があれば事件解決への道も早かったのだが、記憶がないとなるとやはり捜査は難しくなってしまう
助手席で缶コーヒーを飲んでいた部下が一口飲んで口を開いた
「まぁやはり犯人が目覚めるのを待つしかないですね…彼でほぼ確定でしょうけど」
「いや…犯人は意外に別の所にいるかもしれんぞ?」
上司の言葉に部下は目を丸くしていた
* * *
数日後
レオンはナナを連れて遊園地へとやって来ていた
記憶を失くす前に一緒に来ていた場所だ
ゆっくりと歩いてナナは周りを見渡す、じっと見つめていると頭の中に複数の景色がフラッシュバックして思い出される
子供たちの声、楽しそうに笑っている人々、レオンと手を繋いで歩いている姿
「ぅ……」
「ナナ!大丈夫か…?」
「えぇ………何となくだけどここにあなたと来たような気がする」
「あぁそうだ……俺たちが襲われる前に来ていた場所だ」
あの時のことを思い出したのかレオンは眉間に皺を寄せていた
ここで彼と幸せな時間を過ごして幸せな気分になっていただろう
なのに突然襲い掛かった悲劇
ナナも同じように苦しそうな顔をしていたのだがレオンは優しく彼女の手を握り締めた
「今日は楽しく過ごそう」
「!…えぇ」
手を引かれて二人は歩き出す
とりあえず目に付いた乗り物にはすべて乗った
急流滑りや、ゴーカート、的当てなどもありレオンはすべて当ててスタッフを困らせていた
夕方近くになってトイレに行ったレオンを待っている間ナナは一人ベンチに座っていた
ふと遠くにあった大きな看板を見つめていると頭の中でまた映像が浮かんできた
あの看板の近くに男が立っていてこちらを見て口の端を上げていたのだ
顔は思い出せないが何故か口元だけが思い出された
「ナナ?どうしたんだ?」
「……そこに…男の人が…っ」
怯えたようにレオンにしがみついたナナが看板を指差すのだが誰もいない
落ち着いて、と彼は声をかけて誰もいないことを告げればナナは看板を見て男がいないことがわかると安心したように息を吐いた
相当追い込まれている彼女の様子にレオンは手を差し伸べて立ち上がらせた
「…最後に観覧車に乗って帰らないか?」
「えぇ…」
観覧車の乗り場に行き二人は乗り込んだ
向かい合わせに座って、レオンはじっと彼女を見つめていた
「…何か思い出せたか?」
「……特に何も。ここには来たような気がするってぐらい…ごめんなさい」
「謝る必要はないさ……なぁナナ、俺は別に記憶が戻らなくてもいいんだ」
「え…?」
「また新しく思い出を作っていけばいい、それにこれからもずっと一緒にいるんだ年取ってから思い出しても俺は全然構わない」
「レオン……ありがとう」
優しいレオンの言葉にナナは涙を流す
そのまま彼は懐から小さな箱を取り出して開けると指輪が入っていた
婚約指輪だった
驚いている彼女の左手を取ってレオンはそのまま指輪をはめてやった
「愛してるナナ、俺と結婚してくれ」
「レオン………!!」
そこでまた頭痛が彼女を襲った
映像が浮かび上がる今と同じようにレオンにプロポーズされている映像だ
前にもプロポーズを受けたような気がする
「ナナ?」
「……レオン、私前にもあなたにプロポーズされたわ」
「え?」
「そうだ…指輪をもらったわ私…どこにいったんだろ…?ねぇレオン知らない?」
「………そうだ、これが2回目だ。前の指輪は事件で失くしたんだ」
肩を落としたレオンにナナはハッとなった
せっかく彼が気を使ってもう一度プロポーズをしてくれたというのに自分は何をしているのだろう
レオンの肩に手を置いて何度も謝った、ちょうどその時観覧車が一番上に来たときナナの視界に一つのアパートが目に映った
(どうしてだろ…あのアパートに何かあるような気がする)
「ナナ?」
「!…ごめんなさいレオン。あなたのプロポーズすごく嬉しかったわ……もちろんあなたとこれからも一緒にいたいわ」
「…あぁ嬉しいよ」
レオンはナナを引き寄せて何度も口付けた
その日の夜
レオンとナナは何度も愛を囁き合って甘い夜を過ごした
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