02


翌日医者から退院の許可をもらえたナナは荷物をまとめて迎えに来たレオンと共に病室を出て行く
トランクに彼女の荷物を乗せたレオンは次に助手席の扉を開けてやる
ナナは一度病院の方を振り返ってその建物を見上げた
何故かわからないが病院に何かがあるような気がしてならない

「ナナ?どうした…気分でも悪いか?」
「……大丈夫、なんでもないわ」

薄く微笑むとそのまま助手席に乗り込んだ
扉を閉めてレオンは運転席に乗り込むとそのまま車を発進させた
走っている車の中でナナは景色をぼんやりと眺めていたのだがどれもピンと来るものはない、新しく感じるばかりだ
街の中を行き交う人々…この中にはもしかしたら自分の知り合いや毎日すれ違っている人もいただろう…だが何もわからない
頭を抱え込むナナにレオンが優しく声をかけた

「無理をするな」
「……っ」
「焦らなくていいんだ。ゆっくりでいい」

ゆっくりでいい、レオンのその言葉は今の自分にとっては救われた
彼が傍にいてくれる。きっと彼と過ごせば記憶も蘇るはずだ
幸せだった頃の二人に戻れるはず


一つのマンションに着いた
車から降りたナナはマンションを見上げるのだがやはり何も思い出せない
レオンに手を引かれて建物の中に入り部屋へと向かう
廊下を歩いて一番奥の部屋に辿り着いた709号室と書かれている
ふと、自分の頭の中に709と書かれた部屋の番号が浮かんだ

「709……」
「どうしたんだ?」
「……今、頭の中に709号室の部屋の番号が浮かんだから……私ここに住んでたのねって…」
「そうだ、さぁ中に入ろう」

ドアノブを握り締めてレオンが扉を開けた
ゆっくりとナナは部屋の中へと入っていく、レオンは辺りを警戒しながら部屋の中へと入っていった
部屋の中に入ったのだが特にこれといって変わったものはない
ナナの荷物を置いたレオンは部屋の中を歩き回っている彼女に声をかける

「コーヒーでも飲むか?」
「えぇ…」

キッチンへと行くレオンを見送ってナナは棚の上に置かれている写真立てに気がついた
レオンと一緒に写っている写真があちこちにあった。写真の中の自分は幸せそうに微笑んでレオンと腕を組んでいる
きっと彼と一緒にいた自分はとても幸せだったのだろう
マグカップを持ったレオンが現れて一つナナに手渡した、お礼を言って彼女は一口飲んだのだがすぐに眉間に皺を寄せた

「甘い……」
「え?」
「…私はブラックのが好きなの」
「……そうだったな。すまない淹れなおすよ」
「ぁ…ごめんなさい…」
「いいんだ」

申し訳なさそうに謝ってナナはマグカップをレオンに返した
うっかりミスをすることは誰にだってあるのにレオンに申し訳なかったなと少し後悔した
と同時に自分がコーヒーはブラックが好きだという事を思い出した
砂糖が一つでも入っているのは好きではない、すぐに身体が反応して口に出てしまった
淹れ直したコーヒーを持ってきたレオンは彼女に渡すとソファーに腰掛けた

「すまなかった」
「いいの…私の方こそごめんなさい…」
「もう間違えないよ…他に何か思い出したことは?」
「……特に何も」

聞かれてばかりもなんなのでナナは写真立てを一つ手にとってレオンに見せた
彼はそれを見てあぁ、と返事を返した

「3ヶ月ぐらい前のだな」
「3ヶ月前…」
「あぁ、君がそこの遊園地にどうしても行きたいって言うんで連れて来たんだ」
「そうなの…」

じっくりとナナは写真を見つめた、周りに写っている景色を一つ一つ見つめて何か思い出せないかと…
だが相変わらず何も思い出せなかった

「今度ここに行ってみたいんだけど…駄目かな?」
「いや…全然構わないよ。俺も仕事の休みを取れたから」
「仕事……」

――私の誕生日なのに仕事だなんて酷いわ!!
――すまない…

「ナナ?」
「あ、ううん……ちょっと疲れたみたい。休んでもいいかな?」
「あぁ」

レオンは立ち上がると寝室へとナナを案内した


130812


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