03


彼女とはもう会えないだろうと思った
そして子供の時に彼女と約束した事もどうでも良くなっていった
今思えば自分はきちんと彼女と約束したのだろうか?
もし恋人を見つけたらと彼女は言っただけでそれを俺が必ず見つけてくると勝手に決めて一人で彼女との約束だと決め付けていたのではないだろうか?
だってもし彼女としっかりと約束をしていたら、別れることはなかったんじゃないだろうか



運命の日
それは突然やってきた
射撃の訓練をしていた自分の所に一人の男がやってきたのだ
BSAA所属のクリス・レッドフィールドだった
その名前を聞いたとき幼い頃の思い出が蘇った、彼女が探している恋人と同じ名前だったからだ

「……あんた恋人いるのか?」
「…妻がいる。娘も、それがどうかしたのか?」
「…いや、なんでも」

妻と娘…彼女だろうか?
クリスの妻の名前を聞いたってわからない、だが彼女が探していた恋人が彼である可能性が高いし彼の妻だって彼女の可能性が高いのだ


* * *

昼食を一緒に食べる約束をしてクリスは先に喫煙所へと向かった
自分がBSAAに所属してからクリスは何かとピアーズを昼飯に誘ってくれた
彼を見送ってからピアーズはふと机の上に置かれている写真立てに目をやった
そこにはクリスの妻と娘が写っている
間違いない、自分が花屋で恋をした彼女がそこに写っていたのだ
彼女は無事にクリスと再会して幸せを掴んだのだなと目を細めた
だが約束を果たせなかったということにもなる、今となってはもういいのだが
食堂へ向かおうとピアーズが廊下を歩いていた所で赤ん坊を抱えている女性とBSAAの隊員たちが話しているのが見えたので声をかけた

「どうした?」
「クリス隊長の奥さんが忘れ物を届けにきたと…」

隊長の奥さんと聞いてピアーズは女性を見た
花屋で彼女に恋をしていたあの時の気持ちが蘇った、何も変わっていない
少し髪の毛が伸びたぐらいだろうか?
じっと見つめてくる自分に彼女が警戒していたのですぐに我に返った

「隊長の奥さんと…娘さん?」
「はい。ナナと娘のクロエです」
「ピアーズ・ニヴァンスです」

ここでようやく彼女の名前を知る事ができた
内心喜びながらピアーズは自分の名前を名乗って手を差し伸べた
彼女は自分の事を覚えているだろうか?
だが彼女は何も答えずに手を離したのでピアーズは喫煙所にクリスがいることを伝えてそこまで案内する事にした
彼女は覚えていないのか?無理もないかもしれないが
少し進んだところでナナが思い出したように声を上げた
もしかしたら思い出したのかもしれないとピアーズは期待した

「あなたがピアーズね?クリスから色々と聞いてるわ、射撃の腕が上手だって」

望んでいた返事ではなかった
やはり彼女は自分の事を覚えていない

「……まぁBSAAに来る前に訓練ばかりしてましたからね」
「でもその結果役に立ってる。良い事だよ」
「……そうですね、こうしてあなたにも会えましたし」

最後は小さな声で本音を言った
ナナが聞き取ろうとしたのだがその前に喫煙所についた
妻と娘が来たことにクリスは驚いていたが嬉しそうな顔をしていた
そのまま近くの公園で一緒にお昼を食べる事になった


ナナが作ってきたサンドイッチをたくさん食べたピアーズはシーツの上で横になりクロエを抱いて歩き回っているクリスの姿を見つめた

「隊長にも…あんな顔があったんですね」
「クロエにはあんな感じよ。BSAAの隊長とは思えないでしょ?」

クリスは笑わないわけじゃない、自分たちにも微笑んでくれる事はあるのだがやはり家族に向けるのとは何か違う

「ピアーズ君」
「はい?」
「……クリスの事お願いね。家庭でのクリスの事を知らないように、私は仕事場での彼がどんなのかわからないから…危険な仕事をしているって事ぐらいだし……無茶をする場面もあるから」
「隊長を守ってくれって事ですよね?」

また寂しそうな表情をするナナにピアーズは優しく微笑みかけた
その表情に安心したのか彼女も目を細めた

「お願いしていい?」
「…えぇ、安心してください。隊長は俺が守ります――何があっても」

恋人を探す約束は果たせなかった
だがまた新たにできた彼女との約束
自分はこれからもBSAAに所属しているしクリスの側を離れるつもりもない
今度はずっと約束を守っていられる

そう思っていた


130721


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